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MARUYA-MAGIC

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ているので、やはりこの才能のない詩は僕が書いたのだと理解する。

君は鐘塔の屋上から誤って転落し、死んでしまった。こうしてこの、街並み
を眺めていると、いつも眼下に、君から飛び出した血の海が広がっている錯覚
を受ける。街は君の血に沈み、そしてすぐに煉瓦の地面に染み込んでいく。そ
う、僕の思念と同じように。ただ決定的に異なることとは、君の血がこの街の
地下深くにどんなに沈んでいっても、決して街がみる夢へは辿り着くことがで
きない。それだけのことだ。

君の頭蓋骨から溢れ出た大量の血の跡が、真夜中の月明かりだけでも分かる
位、くっきりと染み付いている。いつもの野良犬が通り過ぎた後、無人の街と
化したような鐘塔の下で、僕はその染み溜まりの中に寝転び、頬を密着させて
瞼を静かに閉じる。いつものことだ。鐘を鳴らし終わった後と、鐘を鳴らし始
めるその一時間あまりの間、僕は君の夢をみる。夢の内容は、いつも、鐘を鳴
らすことによって失われた記憶ばかり。いつも鐘を鳴らす.分前に目を覚ます
と、僕は駆け足で鐘塔の中へ入り、机の上で先程夢の中でみた失われた思い出
を紙に書き記そうとするが、どうしても思い出すことができない。いっそ、夢
の中で詩作ができればいいのに、先程の野良犬が、夜に、僕の思念に、遠吠え
を繰り返している。

君が転落死してから、鐘塔の屋上へは、一般市民は入れないようになり、転
落しないように頑丈で背の高い柵も付けられた。僕の君への想いは煮え切れな
い。そして、歳を重ねるにつれて、君との思い出が.しずつ形を失っていく。
君のことを忘れることが人間として成長することなのか、それとも違うのか、
今の僕には、まだ、判断が下せないでいる。











比喩



東京の夜、君に逢う。歩道橋から見下ろすと、車のヘッドライトが僕の故郷
の夏の風物詩である数え切れない程の灯籠流しに見えなくもない。何せ、アス
ファルトの上に漂う東京の夜闇は急な流れの川なのだから。僕は君とそれを両
者が満足するまで眺める。そしてそれから東京の街をあてもなく徘徊し続ける。
僕はその間に詩の題材となる頭の中の宇宙の中で起こっているあらゆる事象に
ついて考察し、君はというと、短歌のことで頭が一杯だけれども、二人共、末


当は日付が変わったらすぐにラブホテルに流れ着く僕達灯籠自身達についての
僅かな先の.来についても想いを馳せている。僕達はラブホテルにて己達の孤
独を、淡々と、快楽に転換・変換させる。いつも、いつも、僕達は東京の汚染
されたとは言い過ぎだが、大気に塗れて、びょうびょうと啼く、風の唄に耳を
澄ませる。澄ませる。車のヘッドライトが脳裏を過ぎる。絶望とは、逆さまに
立てた希望のことである。僕の友達は東京の夜、今夜も、クラブで、それも一
番奥の個.で、白人や、黒人の、アメリカ人と麻薬を打ち、酒に溺れているの
だろう。ビール瓶を子宮に突っ込んだイカれた僕の死んだ女の子と一緒に、一
緒に自殺するのだろう。また、それらの事象は繰り返されていくんだ。

僕達はラブホテルの屋上で、非常階段の錆び付いた手摺りの匂いを、僕だけ
が嫌悪しながら君に手コキを、君だけは喜びながら、僕が手マンを施す。それ
らの快楽に我慢できなくなり、僕等は結.し、僕は/もしかしたら君は、変な
病気に侵されるのではないかと懸念する。この夢のような時間が夢だったらい
いのに。僕は一っ走りし、ドラッグストアでエタノールを買ってきて、僕のア
ソコを、君のアソコの中を、そして四つの掌を綺麗に消毒する。東京の風を受
ける。しかし、お互いの両手や、ペニスの亀頭や外皮やヴァギナからは鉄の錆
の匂いは取れない。仕方なく二人でホテルの男性用トイレへ行き、ハンドソー
プでそれらの錆の匂いをようやく取り除く。まるで、一昨日、君のアパートで
焼いた秋刀魚の下に.いた網の、それらの匂いが中々取れなかったようだ。そ
して、個.の中でセックスをする、君は、1991年.の東京の車道の向こう
側の彼岸に立っていた初恋の相手のような声を押し殺して、「快楽には慣れて
しまったの」なんて出鱈目を言/う/わせる。

僕達はその個.の床をトイレットペーパーで埋まらせて、再びあてもなく灯籠
の灯りの消えた車を探し続け、適当なものが岸辺に引っ掛かっているのを見つ
けると、左岸のコンビニで立ち読みしていた男が駆け付けて来る前に、エンジ
ンを噴かせて黒い川の流れに逆らい、接触事故を何度も起こしながら鮭になっ
た。君は排卵を起こし、シートが真っ赤に染まった。僕は、僕は、僕は…車の
屋根を折り畳み、何処までも進み続けた。高校生時代に死んだ女の子と初めて
ラブホテルに行ったことを、警察も灯籠の火も携帯電話の充電も消えた東京の
街中で君に何となく打ち明けた。君はだらしなく排卵を断続的に続けた。その
中には、僕の種も混ざっていることだろう。しかしそれら全ては、とっくに死
に絶え、僕の陳腐な思考と共に、風に乗って、匂いだけがこの東京の空と同化
するのだろう。この街の大気は均等になることは、日末のそれはそれになるこ
とは、地球のそれはそれになることは、宇宙のそれはそれになることは、世界
のそれはそれになることは、?永遠?になく、ただただ、神の呼吸だけが、こ
の世の全てを破壊し、再生させることを僕と君は知っている。












.橋火葬場



青い煙が、「.橋火葬場」の煙突から空に向かって火傷した右手を伸ばして
いる。それらは成層圏の一部となり、地球上のあらゆる海面・水面を青く染ま
らす。でもそんなことどうだって構わない。今、そしてこれからも、僕にとっ
て大事なこととは、君の死体がいつまで経っても焼却炉で燃えないこと、そし
て「.橋火葬場」がいつまでもいつまでも君を燃やし続けていること。そんな
こんなで、何時まで経っても君の葬式は終了しない。

僕は他の人達が斎場の寝.で眠っている真夜中、「.橋火葬場」へ出向き、
燃え盛る焼却炉の中から死体の君を束の間の眠りから覚まさせて、青.年科学
館にあった自転車をかっぱらい、君をその後ろに乗せて.橋を渡り、無人の街
中の車道を、何処までも何処までも走り続けた。君は笑い声を上げ、僕もつら
れて笑った。僕の肩に君が両手を載せると、君が思っていることが脳裏に浮か
んだ。それらは僕と全く同じ代物だった、僕は下らないサラリーマンを辞め、
君とこうして毎夜のように夜のサイクリングを楽しんでいた。そして毎日が終
わりのない葬式だった。既に僕は一年間も君の葬式に出向き、素敵な君と朝が
やって来るまでラブホテルでセックスに耽っていた。君は僕に言った、「お腹
に貴方との子供がいるの、だから灰になる訳にはいかないの」と。僕はそんな
時、君と手を繋いでおり、満天の夜空が脳裏に浮かぶと、きまって涙を流した。
僕の気持ちは空虚となり、.川の夜景がそれに沁みて光を益々嫌悪するように
なった。

僕以外の人達は、君の死体が何時まで経っても灰にならないので、いっその
こと、西欧の何処かに「土葬」しようか、という話にまとめた。僕はその話を