MARUYA-MAGIC
そしてとうとう一末の木だけになってしまった?森?は、最早切り離したり、
分断したり、新しい森を植える力は残されていなかった。動物らしき動物達も
僅かに、駱駝の子供らしき駱駝の子供一匹だけとなってしまった。森と駱駝の
子供はある時偶然出会い、世界の終りを共に嘆き悲しんだ。森は駱駝の子供の
背中の瘤が無くなっているのに気付き、真夜中、僅かな涙を降らし、駱駝に最
後の水分を与えた。もう世界中の何処を探しても、地下水が残っている場所は
無かった。全ての水分を失った一末の木だけの森は力尽き、駱駝の子供の前で
倒れた、駱駝の子供は悲しみに暮れ、涙を一滴、朽ち果てた森の表皮に落とし
た。すると突然空の彼方からもの凄い轟音が響いてきて、遥か遠くで隕石の落
ちる音がすると、満天の星空が突如厚い雲に覆われて、豪.を降らし始めた、
すると世界の気温が著しく下がり、瞬く間に枯渇していた海溝に水が溢れ、赤
い砂漠の所々にも大きな湖が沢山できて、駱駝の子供は、森の根っこを引っ張
って彼を湖の中に浸らせた、すると森は蘇生し、世界中に植えていた森の一部
から落ちて地中深く埋まっていた木の種がにょきにょきと地上に若葉として姿
を現し、数百年後、その世界の赤い砂漠は見事に森の緑一色で溢れた、そして
人間らしき人間達や、動物らしき動物達が再び誕生し、世界の中心に、その最
後の一末となった木を植え、世界樹として全ての生き物から崇められるように
なり、その駱駝の子供の子孫は、砂漠を渡る世界で唯一の森と一緒に、埴木の
旅を続けている。
霙
霙混じりの冷たい風が詩人の僕の影をはためかせる。あともう.ししたらこ
の秋は終りを告げ、雪虫の命についての記憶が胸の奥に蓄積した、苦しい冬を
過ごさなければならないのだろう。僕は霙混じりの冷たい風に吹かれている。
誰も居ない東京の国道の上で、僕は霙混じりの冷たい風に長い前髪を揺らされ
ている。影もまた僕と同じように感傷に浸っている。僕は来るはずもないバス
を待っているのだと気が付いたのは、季節=人生の儚さを詩作以外の媒体で痛
感したことからによる。誰も必要無い東京は、霙の影響によって刹那、白く浸
された。僕が死んだ後、僕がこれまで書いてきた詩の数々を誰も読んで、涙し
てくれない。何故なら僕は神様の頭の中のたった一人の詩人なのだから。神様
は僕が奏でた詩作品を、恰も自分で創り上げたとばかり勘違いをして、でもや
っぱり神様も此処からずっと遠い場所で一人ぼっちでいるもんだから、もしか
したら?僕?が書いた詩作品を読んで涙を流すかもしれない。永遠に頭の中の
僕の存在に気付かないまま。
この霙は神様の脳の老廃物なのかもしれない。そして、僕は神様の癌腫瘍な
のかもしれない。神様の頭の中に存在しているのに、この世界では神様の不在
による失望感が僕には溢れている。神様はきっと僕等人間のような姿はしてい
ないのだろう。僕の想像では、「エイリアン」のような格好をした恐ろしい怪
物が思い浮かんだ。何も、ただ、霙混じりの冷たい風だけが吹き抜ける世界で、
僕は「世界」が「世界」として成立した原因をあれこれ考察していた。以前の
僕と同じように、現.世界の書店には決して売っていない「世界」が「世界」
とした成立した原因における理論を載せた書物を何百冊も読み耽っていたのだ
けれど、そのどれもが、僕の求めている「世界」が「世界」として成立した原
因を最後まで論じている書物はどのそれらにも書かれていなかった。?一体、
どのようにして「無」からこの「世界」が成立したのだろう??、という人生
最大の疑問は僕の詩作を単調化させ、これ以上先の真.に進むことができなか
った。だがある時、僕の頭の中に、これまで生きてきた人生の中で最高の仮説
が二つ程思い浮かんだ。その内容とは、まず、「何も無い世界」が「存在」し
ているという先人達が見落としていた決定的な事.である。「存在」さえする
ことができたら、「何も無い世界」とは即ち、「有限」の.組みに入ることが
でき、つまり、この世界には「始まり」も「終わり」等も存在せず、「無」=
「有限」=「永遠、又は無限」の公式が成り立つという訳である。もう一つの
仮説とは、「何も無い世界」は、この世界に含まれている「宇宙」が「限られ
た時間の間だけ」膨張し続け、まだ研究の途中だが、縮小し続けるのであれば、
当然「何も無い世界」にも意思があると言わざるを得なくなり、その「何も無
い世界」は自発的に分裂したのではないか? ということだ。
この後の説明は、先程初めに述べた一つ目の仮説を.用して頂ければご理解
して頂けるだろう。僕はこの二つの仮説が定説になるのは、現在から.なくと
も、僕が死ぬまでには間に.わないと考える。恋人達が冬に向けて街を彩って
いく。正直、僕にとってその光景は羨ましいものなのだが、まだ、先程述べた
二つの仮説をより具体的な理論として発展させる為に、詩作と考察への努力を
惜しまず、大都会の人混みの中を泳ぎ渡りながら、この「世界」の謎を解こう
としている人達のように、孤独の悲しみを原動力にして、.情的な散文詩を綴
り、ジャケットの襟元を交差させながら、霙混じりの冷たい風に含まれた雪虫
達を見て、僕は長い長い厳しい今回の冬も、シサクによって乗り越えるのだ。
街の鐘
青空のように広いこの麗しき街並み、街の市民達に対する強烈な愛が街の鐘
を鳴らし続ける。君と僕が出会い、愛を育んだ大きな街、思い出すのはいつも
君と過ごした愛に満ちた街の日々。十七世紀のロンドンのような街並みは、こ
の街が建設されてから変わることなく現在も市民達の心を潤す。鐘塔からはこ
の街の街並みを一望できる。街の鐘の音は、人々の生活に染み付いていて、一
度でも定刻通りに鐘が鳴らなければ街の人々に混乱をきたすかもしれない。
鐘塔の屋上から、街の空へ、僕の思念が無数に飛び交っていく。そしてそれ
は次第に浮力を失い、真夜中、人々の夢の中に染み込んでいく。君が死んでか
ら僕は、この鐘を鳴らす仕事に就いた。いつも鐘を鳴らす時に思うんだ。この
上にある鐘は僕の癒える可能性の低い心そのものなんじゃないかって。胸の痛
みが激しく、苦しい時、僕は鐘を思いっ切り鳴らす。時々、街の鐘は、街の心
臓なんじゃないかって思うことがある。僕が鐘を鳴らす度に、君との限りなく
無数に近い思い出の瞬間瞬間の連続体の一コマが一つ、消えていく。鐘は、誰
かの人生を支える為に、僕の昔の記憶を吸い取る。他人への恩賞の対価は僕の
中の暗闇の原因となるそれらのマッチの灯りを一つずつ、消していく。
僕は毎日、悶々とした日々を送っている。そして鐘を一時間毎に鳴らし、黒
い灯り達が消える前に、君との思い出を題材にした詩を書く。だから、自分で
書いたはずのそれらを後になって読み返してみても、末当に僕が書いたものな
のか分からない。他人の、全く才能のない詩を眺めているような感覚に陥る。
けれども、それらの未尾には自分の名前とそれらを書いた時刻が正確に記され
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史