MARUYA-MAGIC
貴女を生涯愛し、守り続けることを。苦しむのは僕一人で構わないから。
僕の夢の中に土足で勝手に上がってくるのは君しか許さない。全身全霊の愛
情を込めて君への詩を書いたその夜は、彼らの代わりに君がやって来て、様々
な空間を二人でセックスをしながら、睡眠時間の終わりに追われるように逃げ
ている。そして胸の奥の荒れた心ではない、何かに、木枯らしが吹いて僕を切
なくさせる。夢から覚めても、僕の胸の奥の?何か?は、ずきずきと、神経を
伝い、脳に痛みを認識させる。もしそれが真夜中ならば、僕は、宇宙の外側の
世界の神様のことについての詩を何の苦もなく書き上げる。太陽の存在しない
僕だけの世界で。僕は神様について、そして君について想いを馳せる。いつか
元通りの生活に戻ったとしても僕は嫌悪している彼らの夢から覚めた後、真夜
中に布団からごぞっ、と起き上がって、自分だけの世界の中で、神様の居る世
界で最も素晴らしい詩を書き上げる。神様は夜行性だから、朝が来る数時間の
間、僕の詩をこっそりと読んで下さり、君は僕の荒廃した平安を元に戻す存在
だ。太陽は僕の心臓にとって、害を与える存在であり、太陽に背を向けたこの
地球を優しく見守ってくれている満天の星々は、僕の?何か?にとって、瑞々
しい世界を提示し、僕は「彼ら」の為に、.しだけ更生の光を与える。
ユビキタス
神が先進諸国だけに偏在している。神が発展途上諸国に駐在している。神は
後進諸国の脳裏を過ぎっただけだ。僕の国、いや、今現在世界中が百年に一度
の大不況に陥っているのを諦観している僕等詩人。僕は神と純潔な世界で対話
することで多忙を極めている。神は何も語らない。何故なら僕が問い掛ける言
葉全てが神からの返事だからだ。神とは人間が心の中で飼いし貪欲な怪物。彼
は、僕が会う人間、会う人間の心に.わせて、多彩に変化する生き物である。
神とは他者である。僕が詩作に向かう時、自分自身と対峙するように、同時に
神とも対峙している。神は僕が日末に居る限り、日末に偏在し続ける。神は僕
が発展途上国に居る限り、発展途上国に駐在し続ける。神は僕が後進国に居る
限り、後進国の脳裏を過ぎ続ける。
信仰、それは己の精神を安定させる薬のようなもの。信仰、それは人のあら
ゆる観念に根付く病原体のようなもの。信仰、それは、人間を良くも悪くもす
るこの大世界で最も単純な洗脳システム。僕の信仰は、自ら創り給えし、向上
心、とこの世界に生きる人類の為の幸福論。
己の詩作がこの?世界?を救うことは百も承知だ。譬え今僕が死んでも僕が
遺した詩は後世に永遠に残り、人々の魂を潤すことは百も承知である、僕の詩
を読んで不快に陥る人間がいるとしたら、その心は欺瞞に満ちている。僕の思
想は?神?に誓って間違っていない。僕は己を映す鏡が屹立しているだけで後
は光以外、何も存在しない世界で(つまりこの空間のことである)、一人、シ
サクに耽っているのだ。だから神は先進諸国にも、発展途上国にも、後進国に
も、何処にも存在しない。広義の神とは、先人の言うように、人間の想像の産
物なのかもしれない。しかし僕は、デジャヴの見ないラブホテルで、?一人?、
鏡台に向ってノートにペンを走らせて、又はノートパソコンに両手の指を走ら
せて。
永遠を、束の間体感する。神にとって僕にとって、涙は永遠の終焉を意味す
る。心の化学.験.で、人体模型を尻目に試験管に入った僕の感情が化学変化
を巻き起こし、飽和する。僕は全身をその化.物塗れにさせて取り壊された旧
校舎のリノリウムの廊下を走り回るのである。夏がやって来た四国、僕は郵便
ポストに凭れてオレンジアイスキャンデーを銜え、永遠をずっと待ち続けてい
る。アスファルトを膨張させる照り付ける太陽の光の下、僕は世間で夏休み、
と言われている間、ずっと永遠を待ち続けている。
真夏の夜の匂い。虫達が命を燃やす匂い。何処かから花火の音と、それを楽
しむ子供達の笑い声。─神は遍在するよ─。僕はアスファルトの上をやっぱり
君の元ではなく、神の元へと歩き続けるよ。─ケッキョクハイツモヒトリ─、
大不況の夜、僕は純粋な神と対話した。神が君ならいいなと何度も思った─。
僕は生きてきて良かった、と、この詩を書きながらふと思う現.。
不思議な詩ができた。─まるで神との対話が記された唄のような─、僕は先
進国日末本幌市で、ノートパソコンを打ち、朝を迎えようとしている。さぁ、
今日も今日のシゴトが待っている。君には君の仕事が待っている。不特定多数
の神は絶望を希望に変える不思議な力を自分が持っていることを人類に知らせ
る。神は絶対不変の存在ではない。あなた方がたった一人で生きていけないよ
うに、あなた方は心の中に神を?飼って?いる。僕達は神を飼い続ける限り何
度もこの世界に生まれる。僕達は既に永遠を手にしている。
赤い砂漠を渡る森
赤い砂漠を渡る世界で唯一の森は、地下水を求めて根っこを足代わりにしな
がら、ちょこまか、ちょこまかと移動し続ける。その赤い砂漠とは、その世界
の全部分を占めていて、人間に似通った動物達は、己達が引き起こした温暖化
の影響によって呆気なく絶滅してしまった。他の動物達らしき動物達も、それ
の影響で、種族の半数以上は死滅してしまった。赤い砂漠を渡る世界で唯一の
森は、ただ、自分が生き続ける為に、そしてこの世界に新しい森を増やす為に、
地下水のありそうな場所を隈なく探し、枯れないように水分を補給し、自分の
体の一部をその場所に植える。しかし、その環境下では、其処の地下水はすぐ
に枯渇してしまい、その一部はすぐに朽ち果ててしまう。その一部は意思を持
っていないのでその場所から永久に動くことができない。しかしその森は、ほ
んの僅かでも希望があるのならば、其処に小さな森を植え、世界が緑で満たさ
れることを渇望するのだが、いつも上手くいかない。
赤い砂漠にはこれまで一度も.が降ったことがない。まだ人間らしき人間達
が生存していた頃、全ての大陸は、寒冷地であり、.季が一年の半分以上もあ
ったのにも係わらず、だ。森はその話を様々な動物らしき動物達から何度も訊
いた。真夜中、森は幾分気温の下がった果てしなく続く赤い砂漠の中で、その
話を思い出すと、つい涙を森の中に降らせることがよくあった。そしてその大
量の涙が染み込んだ地下の上に、はたまた体の一部を切り離し、小さな自分の
分身を植えた。譬えそれが、蝉のような蝉の寿命よりも短い命だとしても、森
は決して希望を失わず、彼の為に涙が一滴も出なくなるまで嘆き悲しんだ。
赤い砂漠を渡る世界で唯一の森は、年月が流れる毎に、.しずつ痩せ細って
いった。地下水を見つけては己の体の一部を切り離して、多くの動物らしき動
物達の死骸を見つける度に、お墓の代わりに自分の体を分断して、彼らの死を
悼む真夜中になると、恵みの涙を降らせ、毎度毎度同じように、小さな新しい
森を植えた。
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史