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MARUYA-MAGIC

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内の心象が脳を震わせる。それはもう十数年前の記憶で──、あり、数十年前
の記憶であり──、数年前の記憶であることも確かである──。

iPod、よりMDウォークマンの方が重たいと感じるようになったのは何
時の頃からだろうか。唄を歌いながら試作ができなくなったのは、何時頃から
だろうか。僕の詩作品の完成度がぼろぼろだったことに気付いたのは今頃だろ
うか。「眠たい」から、といって詩作を途中で投げ出すようになったのは、そ
の完成度を高める為だ、と自分に課せられた試練から逃げるようになったのは。


PV撮影の.間、彼女達はスポーツドリンクで喉を潤している、しかし僕は
その輪の中に入ることができず、白いリクライニングチェアに寝そべり、一人
アイスコーヒーを作っている。温いそれを飲んでいると、突然彼女達が僕の名
を呼び、手招きをし出した。それは僕の学生時代の三人の女性達の記憶を呼び
覚まし、僕は/喪失/希望/を、思い出し/見出し/た、彼女達は、僕に何処
出身なんですか?、とか好きな食べ物は何ですか? と香水と化粧とヘアスプ
レーとシャンプーの匂いを振り撒いて訊いてくる。シャンプーとヘアスプレー
の匂いを振り撒いて訊いてくる。僕はどちらにしろ嬉しくて、でも君に後ろめ
たくて、笑顔になる筋肉を駆使してそれを彼女達の匂いのように振り撒く。

話題は/結局/次第に/これから撮る、踊りの振り付けについての話となっ
た。僕は立ち上がり、彼女達と一緒に踊りを.わせ、いよいよ末番に挑むこと
となった。しかしその時、僕にもの凄い後悔と罪悪感の波が押し寄せてきた。
僕はその腹いせに現場に遊びに来ていた監督の子供の頬を思いっ切り引っ叩く
と、其処で瞼を開けた。ぱらぱらぱら…、とヘリの飛んでいる音と、星屑を宇
宙の上からばら撒く音がした。前者は勿論ヘリのプロペラそのものが原因だが、
後者はおそらく、神様の仕業だろう、時計の針を見てみると、熔けて底に溜ま
っており、身長が丁度三末共均等になった。僕は急に虚しさを感じた。きっと
今、橋の上に立っていて、僕の御魂が打ち上がって青空に花火が咲いても、僕
はちっとも感動なんてしないし、第一、君とまた会う為には、大衆を喜ばせる
一瞬だけの為に生きていてはならないのだ。そう考え終わると、ふいに僕は創
作がしたくて堪らなくなり、起き上がろうとした、だが、その前に、僕の苦い
思い出に潜んでいる三人の女性達にお別れを告げる為に、PVを撮り終えよう
と思った。僕は限りなく太陽に近い青空を凝視すると、再び瞼を瞑り、三人の
女性達と、iPodの音楽に.わせて赤い舞台の上で踊り始めた、踊りの途中、
僕の想像力が開花し、即興で素早い踊りを踊ると、彼女達も笑顔になりながら
僕の踊りを真似し始めた。そして最後まで踊り終わると、監督は、「カット!!」
とメガホンで叫ぶと、僕は目を覚ました。辺りには夕闇が優しく戦いでいた。











夫婦で営んでいる薬局



十二月の中頃、学生の通学路と僕の通勤途中にある.し寂れた薬局は、夫婦
で営まれている、と僕は通りかかる度にいつも思う。この季節の、この時期の、


この薬局の佇まいが僕にとって最も感慨深い。と言っても、最近、ふと、心に
穴が空くようなことが多々あり─失恋したというか、失望してしまったのだ─、
その影響でその薬局のようなある独特の風情に呼.して感傷的になってしまっ
たのかもしれない。

帰宅途中もその薬局の前を通るのだが、どんなに残業で夜遅くになっても、
店の明かりが灯っていて、きっと僕と張り.っていると錯覚してしまう。自意
識過剰過ぎだ。だが、どんなにその薬局に興味を抱こうとも、僕は決して中に
入ったりするどころか外からカウンターを見たりするようなことはしない。何
故僕はそうしないのだろうか。多分、薬局の軒下の黒い埃が気になるからだろ
うとか、やっぱり軒下ではなくて窓硝子に付着したそれとか、はたまた僕の心
(心臓)の表面に付着した埃の為だろうか。結局のところ、僕は癒しを求めて
いるのかもしれない。

そしてとうとう僕はある朝、会社を無断で休むことを決心して、その例の薬
局に入ることにした。何故なら僕はまだ読み終わっていないが、カフカの「城」
のあらすじのように、何時まで経っても城に辿り着けないという人生を終えた
くなかったから/である/、その薬局に入ったのである。

僕は凍て付く寒さで凍り付いた手動式の硝子扉をなんとか硝子を割らないよ
うにがらがらがらと開けると、白髪の混じった、パーマか天然パーマの頭のお
ばさんが、「いらっしゃいませー」と僕に挨拶をした。店内は暖房が効いてい
て、僕の眼鏡のレンズを必然的に曇らせた。彼女は一目見た瞬間、僕の、「薬
局を営んでいる人は、薬剤師の資格を持っている」という先入観からか、彼女
の皮膚から沁み出してくる雰囲気が知的さを漂わせていた。あの頭は天然パー
マだろう、僕はそう確信した。理由を述べなければならない義務があるので述
べておこう。何故なら、これまた僕の先入観で、知的な人が─一部の人達を除
くが─、あのようなセンスの無いパーマなどかけないに決まっているからであ
る。

僕は丁度イソジンが切れていたので、その彼女に、自分で探せばいいのに、
「あのー、イソジン、置いてますかぁー?」とその罪悪感を誤魔化す為に、白々
しく、彼女の知識を吸うような目付きで彼女の顔を覗き込んだ。すると僕の想
定していた僕と彼女の顔の距離に僕の顔が到達する前に、知的な彼女は、まる
で僕の思惑を見透かしたように、素早く顔を上げ、「.々お待ち下さーい」と
健やかな笑顔で答えて、棚卸しの手を止め、カウンターの奥にある通路に向か
って、「?貴方―?、お実さん、お実さん」と、声を掛けた。すると.しして、
「はいはーい」と、スッ、スッ、スッ、とスリッパを引き摺る音がして、知的
な彼女の旦那さんらしき頭の禿げた人が顔を出した。彼もまた、知的な雰囲気


を放っていた。その後の記憶はあまり覚えていない、というかあまり言いたく
ない。

結局僕は会社を三十分遅刻しただけで、普通通りに出勤した。そして普通通
りに残業をして会社を出た。帰り道、いつものようにあの薬局の横を通ると、
知的な旦那さんと知的な奥さんが知的なクリスマスの飾り付けをしていた。僕
の存在に知的な二人が気付くと、にこやかに笑って挨拶をしてくれた。僕は何
だか複雑な感情のまま、苦笑いで会釈をして、家に着くと、部屋の電気を点け
る前に、イソジンでがらがらがら、とうがいをした。











Repeat



長い長い補習授業を終え、その学校の帰り、十八歳以上だと偽って、深夜の
カラオケ屋に侵入、する前に私服に着替える。只今、PM10‥00ジャスト、
自宅にはいるはずもない友達の家に泊まって勉強会、という嘘をでっち上げて
電話を入れる。PM10‥04、店員の案内に従い、無事にカラオケルームに
到着する。この場所へ辿り着くまでの通路にて、危ない大人達が各個.に潜伏