MARUYA-MAGIC
.年と夢を通じて初めて会った日から数日経ったある夜、彼は再び僕の夢の
世界へやって来て(その時何故か僕は曇った昼間の工場の前の.地内に立って
いた)、.し暗い表情で挨拶をし、そして突然俯いてしまった。僕は彼にどう
したの? と質問してみたが、彼は顔を下に向けたまま錆びたパイプの山に腰
を下ろした。僕はすぐさま彼の隣へ行き、腰を下ろして、ねぇ、どうしたのさ?
と心配して.し強い口調で真面目に訊いてみた。すると彼は暫く間があった後
に、自分が知らぬ間にみていた誰かの夢の中にいる、【悪夢】を齎す魔物達か
らその人達を守ることができずに、原因不明の死と診断されたまま、現.の世
界で処理されているという話を聞いた。どうやら最近になってその魔物達の影
響で亡くなる人が世界中で密かに増えているらしい。彼はそれを世界中のネッ
ト記事で発見してひどく落ち込んだという。僕は、最初は彼の話をとてもじゃ
ないが信じることができなかった。そして彼が末当に現.の世界に.在する人
間だということも、僕は彼にそのことを正直に打ち明けると、彼は大きな青い
瞳に涙を溜め、僕の電子メールアドレスを教えて欲しいと頼み込んできた。僕
は彼にそれを教えると、彼は立ち上がり、「現.」で僕と君が以前話した話や、
今夜話した内容を君宛に送るから、もしそれが届いたら、僕のことを信じてく
れるね? と質問してきた、僕は、うん、と彼と約束すると、彼は塞ぎがちだ
った心が.し晴れたのか、笑みを零して、工場の.地内を出て行った。
次の日の朝、僕は目覚まし時計のアラームによって目を覚まし、会社に出掛
けた、すっかり彼との約束のことも忘れてみっちり夜遅くまで働いた。くたく
たになってマンションへ帰って来て、スーツ姿のままベッドで眠ろうとした時、
ふと、.年のことを思い出し、徐にパソコンの電源を入れメールチェックをし
てみた。すると、様々な迷惑メールの中に一通だけ、英語で、?From、Мr.××××、To、△△△?、とタイトルが書かれたメールがあって、開い
て見てみると、それは何と、?夢の中の.年?からのメールだった。僕はその
末文を読みながら、夢の中で.年と話をした様々なことを思い出し、.年の話
が末当だったことに思わず涙が零れた。.年はカナダのとある州に住んでいる
らしかった、僕は和英辞書片手に、すぐさま返信メールを書き、送信した。す
るとすぐに返信が帰って来て、その文の最後には、「この続きは夢の中で話し
ましょう」と書かれてあった。
光
末当は、桜か桃が良かった。末当は、女の子が欲しかった。でも君は、僕は、
光
ミツル
という男の子を授かった。君や僕が名付けた訳では無い。君のお腹から出て
きた時から、その名前として生まれてきたのであった。いや、君のたった一つ
の卵子の中に僕のたった一つの精子が入った瞬間から光という名前に決まって
いたのだ。それは誰が授けたものでも名付けたものでも与えたものでもない。
百歩譲っても神ではない。無が初めから存在するように、光という名前もまた、
彼が存在を始めたと同時に生まれたのだ。僕も君もそう思って止まない。
光が生まれたことによって、幸せで不安定であった「家族」としての生活が
変わり始めていった。それまで君への愛だけで満たされていた家庭は、僕の君
に対する愛情で浸されていた心の底を、末当の気持ちを、擽らせて僕を不安に
陥れていた。僕は僕と君との愛の結晶のようなものを、末能的に現.に形とし
て残しておきたかったのかもしれない。光という存在の出現によって僕の中に
太陽が生まれ、心の底に日溜まりを創り、不安という無数の毒の芽を一つずつ
浄化させていった。日当たりの悪いマンションに、毎日光を照らす光が射し込
み、日溜まりをつくっていた、僕はその中できらきらとつぶらな瞳を輝かせる
笑顔の光を見て、光という名前は僕の単色であった心の中の愛情に多彩に色付
かせ、時々波が立ち、荒れ狂っていたその水面を穏やかにさせた。
それと同時に、僕により良い人間としての人間形成を促した。しかし良いこ
とばかりではなく、光を溺愛したばかりに、その反動として彼の将来に対する、
新しい不安が心の底に芽生え出した。その不安は、君にすら打ち明けることが
できなかった。
君が仕事の都.で家に帰って来なかった土曜日の深夜、月の光がベビーチェ
アに座り転寝をしている光を照らしていた時に、ノートパソコンから目を離し、
光の寝顔を見ると、ふいに堰を切ったように止め処なく涙が溢れて来て、僕は
光に僕の中の日溜まりの熱では溶けそうにない、鉛のような不安の芽について
光に呟き始めた。光、これから言うことを夢の中からでもいいから聴いてくれ、
父さんはお前の母さんとの愛情の証しとしてお前をこの世に?また?、生み出
してしまった。光、お前がこれから成長していくにつれ、どうして父さんや母
さんは俺をこの世に生まれさせてしまったのさ? と苦悩し、父さんや母さん
に話したりするかもしれない。?この命は俺の為だけの命じゃない、俺を愛し
て止まない人達のものに過ぎない、俺はこの限りある命の為に生まれてきたか
った訳じゃないんだ?と、いや光以外の人間達もきっと一度はそう思うかもし
れない。.際にその言葉は当たっている。しかしいいかい、光? 父さんや母
さんにだって、お前に生を授ける?権利?があったんだ。そして父さんは断言
できる、苦悩の果てにお前にも愛する女性ができた時に父さんや母さんと同じ
感情を抱くということを。結論から言うと、結局人間って、その繰り返しでこ
こまで繁栄してきたんだよ? そしてそれを信じる人々の子孫達だけがこの先
を生きていき、人を愛する理由を、愛情を永遠にする為に限られた命を両親か
ら与えられたことに気が付くだろう。だからそれまで頑張って生きて欲しい。
そう言って僕は光の頭を優しく撫でると、心が.しだけ軽くなったような気が
した。自分自身の為にそんな独り言を呟いたのかもしれない。しかし「末音」
というものは.なからずそのような目的の為に吐き出されるものである、と僕
は自負した。そして再びノートパソコンの画面に視線を移し、?光の詩?の続
きを書き終えると、光を抱き上げて布団に一緒に入り、もう一度頭を撫でて安
らかな眠りに就いた。
瞼の裏で踊る光達
一戸建ての昼下がり。木々に揺れる日溜まりの中に体を浸すと、瞼の裏で踊
り始めた三匹の光達、僕の眼球は彼女等と一緒に生きる君が滴らせる。死への
欲動の上でプロモーションビデオを撮り続ける。スニーカーがびしょびしょに
なりながら、僕は彼女達と息を.わせて踊り続ける。僕はあんまりそれに浸り
過ぎると死にたくなっちゃうから涙は浮かべたくない。だけどこの赤い舞台は
絶対に降りたくない。.月の風が隣家の木々の頭を優しく揺さぶる音が、落ち
葉の海を掻き分けて進む小舟が立てる音のようだ。僕は夢想のように思う、君、
が、この胸の中で眠りに就くことは一生無いのではないか、と。冷たい大学構
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史