MARUYA-MAGIC
である。何故生き物は半永久的に繁殖を繰り返しているのかと問われれば、僕
はすかさずこう答えるだろう。?僕達と同じように、その限りなく無限に近い
愛の血筋を形として永久不変に残しておく為だ、と。しかし人間達は長い営み
の中で、必ずしも子孫を残すことだけが「愛」というわけではなく、永遠の愛
を求めずとも、その男女が生涯幸せに生きていければいいに違いない?、と。
僕は.だに君の腰掛けている苔の生した古五戸のある開けた日溜まりの野原に
辿り着くことができない。何故君がその古五戸に腰かけ、僕を待っているのか
が分かるのかというと、毎夜、毎夜、このノルウェイの森でみた夢は全て現.
と化する、という噂を森の近くの小さな町の酒場でふと耳にし、.際にその夢
をみているからだ。しかし、このノルウェイの森に入ったら、自分の願望を叶
えるまで、永遠に出られないし、元来た道を引き返すことすらできないらしい
のだ。僕は満天の星空を眺め、君の六枚目のシングル曲をワンリピートで繰り
返し聴きながら、自分の心が重たくなっていくのを感じた。僕にとってこの曲
は──君がかつて愛していた恋人の死を歌ったものであった曲なので──君に
会えない悲しみと同時に君が僕のことを愛してくれるのかどうか、という深い
胸の苦しみを感じた。しかし僕は「現.」を受け止めようと、イヤホンをした
まま寝袋に潜り込んだ。
どの位の歳月が北欧の森を通り抜けていく風によって流されていっただろう、
僕はその間に詩人としての地位を確立し、小説家としても活躍していた。ある
時、突然道が開け、あまりの眩しさのあまり瞼を閉じ、暫くした後ゆっくりと
瞳を開いてみると、柔らかな光の日溜まりの中、野原の真ん中に緑色に苔生し
た古五戸が埋まってあって、その縁には白のワンピース姿の君が座り、此方を
見てにっこりと微笑んだ。僕は夢中で君を抱き締め、今までの堆積した悲しみ
を止め処ない涙へ転化させて更に君を強く抱き締めた、君も僕の背中に手を回
し、二人で仰向けになると、君のデビュー曲を一つずつのイヤホンで聴いた。
賛美歌による、神とSEKAIの調べ
神を愛そう。神の心臓である、この世界の宇宙を愛そう。愛する人を更に深
く愛そう。神の心臓の鼓動と更に深く愛する他人の心臓の鼓動で、己の生きる
原動力を打ち鳴らそう。譬え神が息絶えても、やがてその他人は、「人」とな
り、あなた方の永遠に繰り返される祝福の人生の伴侶となるだろうから、その
他の他者も平等に愛そう。そうすればその他者も、「人」となり、あなた達の
祝福は更に深く大きなものとなるであろうから。
僕と君は、神の膨張と収縮を繰り返す心臓を抜けて、白血球に跨り、宇宙の
外の世界を何処までも飛んでいく。朝の時間になれば無数の太陽に似た天体が
宙に顔を出し、夜の時間になれば無数の赤い星々が──それを含んでいるのは
また大きな神の心臓である宇宙なのだが、それが永遠に続く。また、僕達がい
た宇宙の何処かにも神は存在し、「黒い」心臓がその役割を担っている──煌
めき、それは赤血球なのだが、幾つもの神の心臓を越える度に、その黒い心臓
に浮かぶ星の色は白、赤、白、赤、白…、と交代交代に変化していく。しかし
僕等はきっと世界の外の「世界」に到達することは不可能だ。想像だけで垣根
を越えることが許され、同時に、想像だけでのみ、世界の外の「世界」に辿り
着くことができる。しかしその、「世界」の外にも『世界』が広がっており、
その『世界』の外にも【世界】が広がっており、その繰り返しが永遠に続く…。
僕達の神の力は私達と同じように有限なのね、と君は呟き、僕はそれに同意す
る。
つまり君と僕が言いたいのは、神とは有限なる存在であり、SEKAIとは
無限なる存在である、ということである。しかし、と僕は君や「人」々に対し
て声を大にして言いたいのだが、そのSEKAIが「無限」であるとはどうし
ても思えない。ただ確信して言えることは、お互い有限同士の前述の二つの比
率に関して、前者の神よりも、後者のSEKAIの存在の方が大きい、それだ
けである。もう一度述べるが、SEKAIは「有限」なる存在である。ではそ
のSEKAIの果ては、一体どんな風になっているのか? という疑問が浮か
ぶが、僕にはまだ明確な答えを説明することができない。ただ、単に、?SEKAIには果てがない。何故なら、それは地球のように「球体」であるのだか
ら?、とか、?SEKAIには果てがある、何故かというと、それは「地動説」
のように、果てには崖があり、生涯が終わっても落下し続けた先にある重力の
源である底、其処こそがSEKAIの果てである?という、凡庸な想像力しか
働かないのが現状だ。だが、SEKAIが「無限」だという理念はどうしても
受け付けられない。もしかしたら、僕達の神の心臓を無数に含んだSEKAI
は、試験管の中に入っている単なる.験材料の一つに違いない。だからそれを
仮定して話を進めると、「SEKAI」の外に出ればその外は何か薬品の中で、
同じような試験管が隣に幾つも並べられている。もしかしたら僕達が学生時代
に.験の授業の時に使用した試験管の中にも、「黒い」心臓を含んだSEKAIが浮かんでいたのかもしれない。その試験管の外の世界のことは、読者の皆
さんが知っての通り、僕達が普段過ごしていた世界であり、それは僕達が生ま
れた地球にも当て嵌めることができる、つまり、有限のSEKAIと、無限の
世界は、親密な相互関係にあるということだ。
神よりも、愛する人を生涯愛し続けよう。何故なら神はそのことを深く望ん
でいらっしゃるからである。神になる資格は、誰しもが持っているのだが、己
の欲望の為に「神」という自己中心的な権力を乱用してはならない。万物によ
る、二つの有限の調べを聴こう。
毎夜夢をみる.年─Dream、Adventure─
今夜も夢をみる.年の脳味噌は蒸気機関車のように煙を上げ、汽笛を鳴らし、
彼を.知なる世界へ誘ってくれる。昨日の夜はアフリカのサバンナへ野生の動
物達をみに行った。一昨日の夜は明後日の夜の夢の分の夢をみに行った。そし
て今夜、彼は、地球の反対側に住んで居る僕の夢をみにやって来た。何故彼が
僕の夢の世界へやって来たのかは、それは「運命」だと言っても差し支えない
だろう。僕の彼の第一印象は、「サンタクロースの曾孫」という感じ、その印
象を彼とぎこちない英語で色々話しているうちに僕はますます深め、彼が時々
だけではなく、過去、現在、.来を行き来して、世界中の子供達だけではなく、
老若男女全ての人達の夢へ遊びに出掛けられればいいな、と思った。──彼の
寿命の続く限り──、僕は昨日の夜も、今日の朝も二十四歳だったが、昨日の
夜の夢ほど楽しくて、今日の朝ほど爽やかな目覚めは今までの人生で体験した
ことがなかった。そしてその後の体験によって、他の人間の夢を【悪夢】にす
る魔物達を退治する冒険、─Dream、Adventure─へと僕を駆り
出したのだった。
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史