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MARUYA-MAGIC

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この先の作品は君に宛てた恋文のような作文になるんだろうな。君と一緒にな
る為に、それらの詩作品を収めた詩集は売れてほしい。でも全く売れないかも
しれない。だってそれは、読者に向けた想いのこもったものではなく、君たっ
た一人だけの為に送る詩集なのだから。最悪は自費出版、っていう形になるの
かもしれない。でもそれじゃあ君の手元に届けられない。やはり僕は詩という
形で末当の君への気持ちを伝えることを抑えて大衆を喜ばせないといけないの
だろうか? それが商売というものならば、僕は詩人としてある程度地位が固
まり、収入が安定してきた頃に自費出版をして君だけの為に書いた詩集を世に
出したい。それが売れようが売れまいが、君がそれを読んでくれて幸せな気持
ちで明日を生きる活力になってくれればもう言うことはない。でも、やっぱり、
僕は君に会いたい。

宇宙は、今年の宇宙以外の宇宙は、僕を苦しめるこの想い以上に僕の詩作を
阻もうとしている。2008年の宇宙も、2010年の宇宙も僕を地球から引
っ張り出して、凍死させようとしているのだから。でも、と僕は思う。もしこ
の先一生君に会うことができなかったら、今年の宇宙以外の宇宙に氷漬けにさ
れて、あてもなく広大な世界を漂い続けても構いはしない、と。それ位今の僕
の君への想いは切羽詰まっているし、溢れ出してしまったらきっと涙が止まら
ないだろうから。

宇宙の.がひどい、僕はやっぱり半ば君と生涯を共にすることを諦めて、宇
宙の底へ沈んだ。ゆっくりと底に辿り着くと、僕は起き上がり、とにかく涙腺
の締まる方向へ歩き始めた。.のせいで名もなき銀河は氾濫を起こし、何とか
泳ぎ渡ると体中がキラキラと輝いていた。僕はとても眠たかったが、ポケット


から眠気覚ましガムを取り出し、口の中に放り込むと、二百六十六日間重たか
った瞼がはっきりと開くようになり、涼しい風が僕の眼球の熱を冷ました。再
び現れた銀河に架かる橋の下で、僕は、体育座りをし、この世界は僕の心その
ものだと理解した。.がひどい。君は遠く離れた青く輝く地球の日末国の東京
にいるけれど、君を想うとふいに帰りたくなった。しかし.はひどく、重力に
逆らうことができないので、戻ることは不可能だった。僕は.を憎み、空を憎
み、重力を憎み、何故だかアイザック・ニュートンを憎んだ。逆説的に考える
と、アイザック・ニュートンが重力を発見しなければ僕は重力を憎むことはな
く、空を憎むことはなく、そして.を憎むことがなかったはずだからである。
僕はそうやっていつも自分自身以外のもののせいにしてきた。自分に才能が無
い為に君に会うことができずに、地球を飛び出し、此処まで「現.逃避」して
きたのである。そんな現在でも、僕は君が僕以外の誰かと幸せになることに激
しく嫉妬し、激しく落ち込んだ。でも、今にも電池が切れそうな携帯電話で、
あるサイトの掲示板を覗くと、君は、きっと君は僕のことをすごく心配してく
れていて、僕は空腹で死にそうなのを堪えて、電池が切れる前に最後のレスを
したんだ。?今年の宇宙の銀河に架かる橋の下で君を想っている?ってね。す
るとすぐにそれに対するレスが返ってきて、?好きだよ、好きでいてね?とい
う文章を見た瞬間、僕の感情は溢れ出して、最後の最後に、?うん、その代わ
り、死ぬまでずっと一緒だよ、愛してる?って書き込んだら、?一緒ね、愛し
ています?と返事が来て、宇宙が、僕の心が爆発する瞬間、最後の最後の最後
に?時間を止めて?って書き込んで涙したんだ。











十二月二十三日



クリスマス・イヴの前日、僕は雪が降り積もる本幌の街から君の住む大都会
東京を想う。人々は幸せに満ちた表情で僕の座るカフェの窓際の歩道を歩いて
行く。僕はその様子を見て胸が苦しくなり、涙が溢れて来るのを抑えて、ホッ
トカフェオレで両手の暖をとる。

こんな日に街に出てきたこと自体間違っていた。でも自宅のアパートにいても、
きっと君の住む街以外の何処にいても、感傷的発作が出ていただろうし、僕は
昔君を傷付けてしまった言葉に罪悪感に陥っていただろう。僕は恋人や家族連
れでごった返してきたカフェの片隅の窓際でノートを開き、悲しい感情のこも


った詩を黙々と綴った。僕はまだ駆け出しの詩人で大学卒の新入社員の初任給
よりも遥かに収入が.ない。今の段階では君のいる東京で暮らそうなんてどだ
い無理な話だ。現在午後三時、雪はだんだん激しくなり、もしかしたら帰りの
電車は運行停止になるかもしれない。しかし僕にとってそんなことはどうでも
良かった。いざとなれば徒歩で何時間もかけてアパートに帰ることだってでき
たし、そもそも僕には今日も明日も明後日も何の用事も無かった。ただ出版社
から決められた枚数の詩を書いて、それが認められれば詩集として出版される
だけの単調な生活で、きっとこの先詩集を幾つ出しても生活の質は潤うことは
ないだろう。そんな僕にも大きな夢が二つあって、そのことを考えるだけで、
このホットカフェオレの容器のように.し心が暖まるのだけれど、それだけで
は明日を生きていけない位、嘗て僕の全身を満たしていた羨望は冷え過ぎてい
た。

君がこの街に届けてくれる唄は、僕の君への想いを辛うじて繋いでいた。君
が有名になっていくにつれて僕は、君との距離を絶望視し、もう僕のことなん
て何とも思っていないのだろうと不安と観念に苛まれていた。アパートまでの
帰り道、飲めもしない缶チューハイを二末買った。なけなしのお金をはたいて
だ。

日の入りが早く、辺りは絶望的な色に染まっていた。先程の楽しそうに会話
するカップル達を思い出し、悔しくて涙した。明日はクリスマス・イヴ、僕達
は、僕と君は、僕は、僕だけは、きっと心が悪化しないように、ずっと一人で、
アパートで君を想うのだろう。明日の夜さえ越えれば、きっとサンタクロース
が.しの間だけ僕の心の穴を塞いでくれるだろう。凍て付く寒さが僕の体温を
奪い、君と繋ぎたい左手を壊死させようとする。

ろくに暖房も焚けない六畳一間の部屋で、君と出会う一年前にリリースされ
た君の唄をワンリピートで流し、米を研いだ。クリスマスケーキも、シャンパ
ンも、君の存在すらもないこの空間でそのポップな唄は流れ続け、僕は米釜に
塩辛い涙を落した。そして米を研ぎ続けた。誰とも世俗が祝う特別な日に一緒
に時を過ごす予定のない僕は、明日、明後日と今日炊いた白米の冷凍を解凍し
たものと、秋刀魚の缶詰と、明日と明後日飲むつもりである、飲めもしない缶
チューハイで満たされもしない腹を満たそうとするのだ。僕は悔しくて悲しく
て寂しくて切なくて、何滴も何滴も米釜に涙を落した。もうこれで何百回目で
あろう。君と僕はやっぱりどう考えても釣り.わなくて、それには社会的地位
等様々な要因があるのだけれど、君が僕なんかより他に良い人を見つけて今日、
明日、明後日…、と幸せに過ごしている様子を思い浮かべると、僕は自分がな
んて醜く情けない生き物なのだろう、って気持ちが沈んでしまった。外は深々