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MARUYA-MAGIC

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の感覚が無くなり、全身はガタガタと震え、.しでも汗を掻いて体を暖めよう
と、歩き続ける。.水を弾く桜の花弁の音だけが、この感情やこの空間を蜂の
巣のように貫く。2005年の春.は低気圧の影響で全国的に万遍なく降り注
いでいる。君が見上げる空と、僕が見上げる空は、それぞれ、排気ガスで塗れ
てしまった分厚い透明な層に断絶されており、凍える空気を構成する粒子に死
にかけそうな細胞を持つ染五.野の花弁で貼り絵にされている。僕の耳元にか
つて家族と行った海で君を想いながら聴いた波音と、たった一人で感じた2002年十二月の未広図書館の温風の感覚が蘇る。僕はそれらに久遠の絶望と幸


福の恐怖と不安を感じ取り、スクランブルエッグのような混沌とした暗闇の奥
底で沸騰している感情と直結している目頭に痛みを覚える。そして夜行性感傷
的植物のように、昼間は涙腺から涙を蒸散せず、夜間、しきりに涙を蒸散する。
と同時に感情の裏側から放出された孤独感は、僕の背中を暖め、君の体温で冷
まさせて欲しいと激しく僕は渇望する。

森が緑に覆い尽くされ、空が晴れ渡り気温が上昇するような不可思議なこと
など起こらないと分かっていても、僕は、末当の僕を知る為に、桜色の森の奥
深くへと入る。森の底には、きっと死んだ彼女達の霊が僕の噂をしているに違
いない。でも其処へ行ったところで僕は君に逢えない。死者を想うことも、一
緒に戯れることも、もう僕には必要が無かった。君がこの世にいるから、死者
は死者同士、冷たい言い方だけど、これから死んでいく生者を悼んでいればい
いのだ。

森はいとも容易く、僕をその入口へと戻した。夜がもうすぐやって来る。鼻
の中に小さな水滴が幾つも付着している。吐く息が白く、溜息は見えない。僕
は吐き気のように押し寄せてくる感情を抑え、抑え、砂利の空き地を抜ける。
東京に比べたら出来損ないのような僕の町、僕は自分のことも含めてあらゆる
ことに対して.等感を持っているのかもしれない。東京への想いが押し寄せて
くる感情の中心にあって、それはきっと胃液でも塩酸でも溶けることはないだ
ろう。開いた瞼の裏、眼球の真上に、疲労が蓄積している。倒れる想像上の己
の肉体、聴覚器官だけが明瞭に機能し僕を自宅まで歩かせる原動力となる。ア
パートに着き、ベッドに肉体は倒れる。.はまだ止まない。止まないで欲しい。
春、.、は夢の中で僕の眼球を暗闇に押し込み、僕の詩集を空から降らし続け
る。押し入れに隠れている僕の感情は君への性欲を、何度もペニスを抓って抑
えている。

晩春の塩狩峠を、負の気温の中、僕と僕の家族を乗せた車は、曲がり道で鋭
い水飛沫を上げながら、地獄へと疾走する。僕は一人、自.の白い壁に凭れて、
.音を聴いている。.音を聴いている。.音を聴いている。春は僕一人だけを
見殺しにし、東京へ夏を齎す。











クラスメイト達と美唄へ行く




十.歳の七月上.の土曜日に、僕達六人、男子三人と女子三人で、列車に乗
って美唄と富良野へ遊びに行ったことがある。当日は快晴で、朝十時に.川駅
に集.し、特急列車に乗って早速美唄に向かった。

午前十一時前に美唄駅に到着すると、近くのレンタルショップで自転車を借
り、僕達は近場の観光スポットまでサイクリングすることにした。

セブンスターの木の見える場所まで着くと、皆でそれをバックに記念写真を
撮った。すると友人の一人が、「じゃあここからは男女一組になって午後.時
まで自由行動にしようぜ、勿論そんなことも予測できなかった奴はコイツぐら
いしかいないけどな」と言って笑って僕の方に顔を向けた。と、同時に皆から
笑い声が零れた。僕は、「えっ?」と.だに笑い声を上げているクラスメイト
の顔を見回した時、僕が二人の友人にはこっそり教えていたが、.だに告白で
きていない君が.し顔を赤らめて下を向いているのが視界に映ると、僕も反射
的に顔を下に向けて、耳が熱くなっていくのが分かった。僕を冷やかした友人
は、僕と君が両想いなのに、お互い想いを打ち明けられていない現状を打破す
る為に、今回の計画を立てたのだった。そして友人二人と君以外の女子二人は
既に交際をしていた。その事.はその後すぐに明らかとなった。そうして二組
のカップルが、「じゃあな! 頑張れよ!」等と笑顔で叫んで遠ざかっていく
と、僕と君だけが砂埃と共に、ぽつん、とまるでセブンスターの木のように取
り残されてしまった。

しかしそのままぼぉーっと突っ立っているわけにもいかないので、僕は君に
パッチワークの丘へ行こう、と誘うと、君はますます頬を赤らめて、「…うん」
と笑顔で頷いた。

パッチワークの丘までは随分と距離があった。なだらかな道もあれば、アッ
プダウンの激しい道もあった。僕は極度の緊張に陥っていたが、君と一緒に自
由行動できることだけで幸せだった。が、会話は殆ど皆無に等しかった。する
とある時、君の自転車の前輪がパンクして、使い物にならなくなってしまった。
僕はどうしようかあたふたしたが、パンクした自転車をその場に乗り捨てさせ、
君を僕の自転車の後ろに乗せてゆっくりとペダルを漕ぎ始めた。君が僕の両肩
に小さな手を載せた時、心臓が、ビクン、と激しく震えた。

陽光と太陽も真っ青な程澄み切った青空と生暖かく.し強い風が、僕達の緊
張を.しずつ解いていき、ふいに鳴った僕のお腹で、君は初めて可笑しそうに
笑い、僕も照れながら笑った。君は、「お腹空いてない? 丘に着いたら、私
が作ってきたサンドイッチ、食べる?」と僕の耳元で囁き髪の匂いが香った時、
僕は全身が硬直し、バランスを崩して危うく転倒しそうになった。「大丈夫!?」
と君は咄嗟に心配そうに叫んだが、その言葉すら更に追い打ちをかけるように、
僕は君に氷漬けになった。


ようやくパッチワークの丘に着くと、僕達は雄大な田園風景を眺めながら、
君の作ってくれたサンドイッチを食べた。そのサンドイッチは末当に美味しく、
あっという間に君の分まで平らげてしまった。君との今までの蟠りのようなも
のはいつの間にか無くなっていた。僕達は食後、.物の上に仰向けになり、色
んな話をした。学校での生活のこと、勉強のこと、将来のことについて等…、
あっという間に時間は流れ、そろそろ美唄駅に戻らなくちゃいけない頃、僕は
君にふと好きだ、と告白しようと思い、タイミングを見計らって君の目を見つ
めて伝えようとした瞬間、君も僕の目を見つめて口を開いて言葉を出そうとし
ていた時だった。暫く呼吸ができない程の沈黙が続いたが、僕達はお互いの目
を見つめていると、自然と笑みが零れて、暫しの間笑い.っていると、僕から
男らしく、君に、「好きです、付き.って下さい」と告白した。すると君は目
をキラキラさせながら、「はい」と返事をしてくれて、大雪山連邦に太陽が沈
んでいくのを、二人で自転車を乗りながらじっと見つめていた。

僕はこの北海道に生まれて末当に良かったと思う。











夜間旅行



「ねぇ、あそこで戦争をやっているよ」