MARUYA-MAGIC
末当の苦しみから逃げること
僕は末当の苦しみからなど逃げていない、ただその存在が気に入らないだけ
だ。冷凍トラックの中には、薔薇の花が大量に積まれてある。
匂いで分かった。薔薇には、僕の心を穏やかにする効力があると思う。バナ
ナの皮が世界中にばら撒かれている。それに滑って死ぬぐらいなら、自ら死を
選んだ方がましだ。
花火が、この詩作品が僕を進化させる。その為のタイトルであるし、その為
の心の傷を沢山受けてきた。僕は君達の前で仁王立ちし、旅館の夕食のまずさ
に絶望に、火を点ける。巨大なロウソクが灯台跡地に立っている。太陽はロウ
を溶かし、ピサの斜塔は僕が倒壊させておいた。
イメージの連鎖爆発を繰り返す脳のエンジンは心臓を刳り抜き、その中の血
を人形屋に振り撒き、それを人形の胸に食い込ませる。僕は、想像力を今まで
抑えてきた、睡眠不足という方法によって、核兵器の時限装置を心臓の代わり
に僕の空洞に詰め込む。死んだ死んだ死んだ。宇宙外生命体の触手。
やっぱり君等に正直に告白しよう、僕は今、「死後の世界」についての明確な
答えを知らないばかりに「末当の苦しみから逃げ」ている。「死後の世界」と、
この世界の始まりを繋げてくれた釈迦に末当に感謝。たった今、釈迦の気持ち
になって、それについての解答を出したのだ。後頭部の痛みから逃れる為に僕
は鎮痛剤を飲んだ。
神様と話をしたことがある。僕は神様と対等な関係でもって.に沢山の話を
した。僕の第一詩集の「時間が蕩けるアインシュタイン」をタダで上げるのを
条件に、勿論サイン入りで。神の話、僕の頭の中は真っ白、外は真っ暗、僕は
死んだんだよ!! と神様に大声で怒鳴った、神様はにっこりと笑って、僕の
初めての恋人になった。彼女は僕の心よりも両手が長く、その後ろに見える大
雪山連峰にロシア連邦の軍が侵入してきた。僕は詩人であり、言葉のカメラマ
ンである。彼女は死の間際にこう言った、「貴方は私を一生愛することができ
るぐらい、私は魅力的なの」と。
背景は真白い。ライトが眩しい。だけど僕は結局、彼女の存在を証明するこ
とができなかった。
僕は絶望する、そして、今、僕の心は液晶画面と真正面に向かい.っている。
絶望、「病んでますね」が、主治医の最後の一言、僕が死ねば、─死ぬわけが
ないけど─、僕の心は健康になり、「ぼんやりとした不安」を解消することが
できるのか? 龍之介!! 龍之介!!
どうやら彼女が死んだ、と、「解剖医」が断言しても僕は詩を書いていかな
いといけないのだろう、ラーメンはなんであんなに熱いラーメンのまま出され
るのだろう? 下らない。全ては自己中心的なこの詩の書き手のせいでこの詩
はつまらない。死んで? 僕の遺体は海を泳いぎ、地球一周して帰って来た後
にオアフ島の「パンチボウル」で安らかな眠りに就く、しかし十分な睡眠を取
ると、今度は宇宙一周して帰って来た後に.川市近郷の「東川西八号墓地」で
安らかな眠りに就く。その後は僕にも分らない。次は「輪廻」して極楽浄土の
墓地で安らかな眠りに就くのかもしれない。末当のことを言うと僕は常に「末
当の苦しみから逃げ」ている。逃げ場所など「現.」にしか存在しない。だか
ら僕は毎日を頑張って生きるしか、苦しみの呪縛から解放される術は無いのか
もしれない。
狂気の世界
狂気の世界は、まるで心が茨のターバンで巻き付けられているような世界で
ある。私はもう二度と、あの世界に足を踏み入れたくない。私は晩年のニーチ
ェのような病人なので、やはり先程の我儘は強制的に撤去されるのであろう。
つまりどういうことなのかというと、また、「死」に対する恐ろしい妄想をし
てしまうのである。
私は、酒癖が悪く、生活、具体的には、睡眠時間が不規則である。その為に、
寝不足で仕事に出掛けることが多く、多くの場.、外出先で病気を発症させて
しまう。突然世界が百八十度がらりと変わり、一歩踏み出してしまうと、私の
眼球は熱を持ち、バターのようにだらりと溶け落ちてしまいそうな苦痛を感じ、
背筋が強張り、背骨の上の皮膚の熱が急激に下がる。と同時に、頭の中にふと
描いてしまった殺人鬼の包丁が心臓に突き刺さる、若い新婚カップルの夜の酒
場の会話が聴こえてくる、その会話が眼球の内側に貼り付くような感覚に陥る。
全てが妄想なのだが、全てが、私の顔面にへばり付き、頭を擡げさせ、その場
に眠り込ませようとする。もはやそうなってしまった以上、いくら精神科医が
私を無理矢理説得させて処方した即効性の頓服を飲んでも効果は現れない。
サザンオールスターズの「愛の言霊」を携帯電話でリピート再生させる。す
ると.し自分が地獄に葬られたような気分になり、精神が安定し、胃に温かい
血液が回ってくるようになり、灼熱地獄に浸かる狂気の世界を想像する。これ
が私なりの.急処置である、しかしすぐに発症した街から脱出しなければなら
ない。陽の当たらない場所へと移るのだ、今度は、現.に脅え始めるのである。
己の影が刃物の影を持って、私の両方の背筋を貫く恐怖を覚えるのだ。その気
持ち悪さは自宅に戻り、ぐっすりと就寝するまでとれることはない。
私は長い、長い帰路に着くまでに、次々と生まれてくる恐怖から、「時間」
という足枷を付けられながら逃げ続けるしかない。だが、その恐怖は単に私に
不幸を齎すわけではない。詩や小説の思わぬ発想が生まれることだってある。
なので、九十九%自分の病気を恨むことが、心の根底にあるのだろう。けれど、
それが現.的に胃の底を冷やし、結果的にさらに深刻な狂気の世界を生み出し
てしまう。私からサザンオールスターズの「愛の言霊」を奪われたりすれば、
私はとっくの間に精神が崩壊しているだろう。
私の喉仏から上は、空想上の釈迦の世界の雲の上に突き出ていて、脳の毛細
血管の中をドーパミンが知らぬ顔して循環している。私は酒を飲みながら、こ
の作文を書いている間、その情報伝達物質を頭の中でヤミ金に手を染めてしま
った哀れなサラリーマンに譬えて、ヤミ金取立人に扮して、半殺しにしている。
私達が生きるにあたって、その物質は無くてはならないものであるが、と、こ
こまで書いて私はそいつを路地裏のゴミ捨て場に放り込んだ。
駅を出ると、夕日が傾いている。影は建物の影に同化して、「愛の言霊治療」
が最早必要無いと感じると、最後に宇多田ヒカルのバラードに音楽を変えてし
まう。虫の音が聞こえ、時折涼しい風が吹く。私はいつもの自販機で酒を買い、
妻のいるアパートへと.々弾みがちに歩を進める。病気はようやく沈静化し始
めたのだ、私の持病はこの世で最も愛する妻に多大なる影響を及ぼしているが、
.は私、この文を書き始めてから暫くの間、ずっと「死」を覚悟していたのだ。
そのような気持ちで物を書き終わった時、心がとても清々しく感じるのは何故
だろう。
二十八歳
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史