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MARUYA-MAGIC

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の墓地」というのは何処にあるのかは、「死んだ猫」しか知らない、という。

僕が中学二年生から飼い始めた雑種の雌猫がある日の朝、食卓の下で冷たく
なって死んでいた。僕の家族は高校一年生の時に交通事故で死に、.川にある
母方の祖母の家で、祖母にお世話になることになった。その祖母は僕が.川医
科大学一年生の時に他界し、小児科医として.川総.病院へ通勤する前に気が


付いたのだ。家族や祖母が死んだ時もひどく泣いて落ち込んだが、十年間、共
に生活してきた猫が死んだ時は、涙は出なかった。その代わり、僕は冬の.橋
から飛び降り自殺しようとしたところを、巡回中の警察官達に、必死に止めら
れた。僕の心を?猫の死?という悲しみが蝕んでいき、祖母の遺してくれた家
の中で引き籠る生活が始まった。家の中で世界と接続し、虚しく感じる事象を、
無意味に取り込んでは、忘れていった。そして世界での猫の死体の処理方法に
ついて気が遠くなる程調べているうちに、「猫の墓地」という存在を知ったの
である。

「死んだ猫しか、猫の墓地の在り処を知らない」とは一体どういうことだろ
う? 僕はそんなことを考えながら、猫の死体を毎夜、僕の布団の横に置いて
猫の体を撫でながら、腐敗臭など気にせず、ようやくずっと忘れていた涙を流
した。

とある夜、何かの動物が僕の頬に頭を擦りつけてくるのを朧気ながら気が付
いた。僕は瞼を開けると、なんと、死んだはずの猫が全身から青白い光を発し
て、僕の布団を横切り、「ついて来て」と言わんばかりの表情と姿勢で僕の寝
.を飛び出した。僕は寝間着姿で死んだ猫の後を追い、家を出た。僕は辺りを
見回し、死んだ猫が立っている道を見つけると、小走りで距離を縮めた。する
とまた死んだ猫は先へ進み、暫くすると、河川.と堤防のある石狩川の近くの
森の入り口の前で僕を待っていた。僕は追い付くと、死んだ猫と森の中へ入り、
森が生み出す暗闇が僕の体の中へ染み込んできた。しかし別段何の体調の変化
も見られなかった。

暫く進むと、昼間には太陽の光を乱反射する美しい藤沼があるはずなのだが、
其処にはなんと、無数の墓の土が盛り上がっている墓地であった。それらに立
てられた墓標に書かれた猫の名前らしき文字は、世界中の言語で書かれており、
僕の推測だが、此処に死んだ猫を埋葬した者達は、死んだ愛猫に導かれて、こ
の、世界中の何処にも属さない「猫の墓地」という空間へ誘われたのだろう、
と思った。

僕は「猫の墓地」のとある木の根元に座って死んだ猫の頭を優しく撫でなが
ら、涼しい夜風を浴びて、感慨に耽っていた。この空間は、.川の気温よりも
だいぶ高いと感じた。暫くぼんやりしていると、猫は僕の腕から飛び出し、空
いている地面まで駆けて行った。空はゆっくりと明るんできた、僕はとうとう
末当の別れが来たのだと思い、感情が高まり、猫との様々な思い出が蘇り、涙
が溢れて来た。僕は猫の傍まで歩くと、抱き上げてもう一度頭を名残惜しく何
度も何度も撫でた、すると死んだ猫は「ニャ〜ゴ」と甘えた声を上げた。僕は
猫を抱いたまま両手で柔らかい地面を掘り、森の中から墓標になりそうな木々
を集めてきて、死んだ猫の名前を記した。ふと胸の中の死んだ猫を見てみると


可愛らしい死に顔でもうぴくりとも動かなかった。僕は猫を土の中に埋め、墓
標を立てた。











枯れ葉のダンス



季節は春、堆積した雪が融け、昨年の秋に落した落ち葉が、久し振りに顔を
出す。初めは融雪によって凍り付いていた落ち葉は湿っていたが、気温が上昇
していくうちに、ぺしゃんこの落ち葉は風化して、枯れ葉となる。早朝のジョ
ギングの最中、僕はよく、誰もいない歩道の中心で、旋風が起き、枯れ葉達が
ダンスを始めるのを見かける。すると僕はいつものように、毎年のように、昨
秋を思い出す。失恋したことだの、印税が幾ら入ってきただの、.に様々なこ
とを思い出す。一通り回想が終わると、瞼の裏に、鮮やかに色づいた秋の木々
を3Dのように映し出し、僕の瞼を疲れさせ、痛め、重たくさせる。

自宅に帰って来て、シャワーを浴び、パソコンを開いて新鮮な空気を取り込
んだ体で新鮮な詩を.しばかり執筆する。その間、朝食は半熟の目玉焼きか、
黄身までしっかり火を通した完全なる目玉焼きにするか、思考する。去年の秋
までは、僕は、夜から仕事を始めていた、そして完徹した体でウォーキングを
しに行っていた。その後、昼頃までぐっすりと眠り、午後はインターネットな
どをしてだらだらと時間を過ごし、夕食後に仕事を始める、といった次第であ
った。毎年秋になると、僕の数.ない知り.いの誰かが必ず死んだ、僕は焦っ
た。何故なら、僕の数.ない知り.いが全員亡くなると、最後には僕自身も死
んでしまうのではないかという恐怖に脅え、毎年秋がやって来る前までに様々
な職業の人や国の人達と、一年にその時期だけ、僕は知り.いを増やすのに奮
闘する。僕は死ぬのを恐れていた。初めて僕と考え方が似ている美しい女性は、
死ぬことを寧ろ尊い行為だと考えていた。その点以外の思想がその彼女とそっ
くりだった。

それから僕が好意を抱く女性、に限らず男性も含めて、毎年秋になると、様々
な原因で僕の知り.いは死んでいった。誰もが葉を落とし、丸裸になることだ
けでは済まされなかった。僕は自分自身が呪われている人間なのではないかと
何度も疑い、苦悩した。だが何度考えても、死の連鎖は止まることを知らなか
った。この地球という?場?は、秋になり木々の葉を落とす為だけに重力を働
かせていた、僕の頭の中には無数の宇宙を含む世界が収められていた。そう.


感した瞬間、僕は文学と哲学は同類の学問だと認識し、さらに、哲学と物理学
は切っても切れない関係だということを、枯れ葉のダンスを偶然見た日の朝食
の半熟目玉焼きを作っている最中に発見した。文学=物理学、この宇宙の誕生
の秘密も、文学で解決できるということを悟った。そして僕は死を恐れること
を感じなくなった。

僕は今朝の枯れ葉達のようにダンスをしたくなった、しかし、現.にそれを
.行に移すのに.十年かかった、その間に四十九人の知り.いが秋に亡くなっ
た。僕は七四歳になってその年の秋にようやく死ぬことができた、二十四歳の
頃からこれ以上知り.いを増やさなかったのである。しかし僕は死んだ後でも
普通に執筆活動をし、自動車の免許も取り、僕達は人生の半分を暗闇の中で過
ごした。旋風旋風旋風。僕は何の音楽でダンスを踊ればいいかと悩んだ、僕は
書店兼CD屋へ行き、僕がダンスをするのに適当な音楽を探した、だが僕の気
に入る曲は何処にも置いていなかった、その足で書店コーナーへ移り、面白そ
うな末が置いてあるかどうか興味末位でタイトルを斜め読みしていると、あっ
た。僕は村上春樹の、「風の歌を聴け」という末を見つけたのだ、季節は春、
僕は「風の歌」を聴きながらダンスした。落ち葉達も、「風の歌」を聴きなが
らダンスしていた。僕はその光景を見て哀愁を感じ、彼らが、僕が、地球の一
部になるまでダンスし続けた。踊り続けた。