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MARUYA-MAGIC

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とそれにつられる肉体。ベランダを飛び出して、此処から近くのCD屋まで自
転車を漕ぐ、不完全な漆黒の闇は僕の意識までも飲み込む。気が付けば君と出
会った森の中、木々の葉は鋭さを増し、茂みを掻き分ける時、無数の切り傷を
つけた。煙草の火を点けた。燃え上がる円状の茂み。.を頼りに、奥へ、君の
奥へと進んでいく。

僕にとって君は最初の「Girlfriend」。君にとって僕は最後の「Boyfriend」。でも忘れてしまったあの頃の想い。ただ、君を想いなが
ら東京の高層マンションのベランダで、夏の夜風を浴びたことだけは覚えてい
る。今では僕の体から若気の至りの熱が逃げていって、何に対しても感動しな
くなった。これが「大人」になるってことか。セックスをしたからって何に対
しても「大人」になるってことはない、と気付いた夜の森。自分で定義してい
るけれど、僕は君にとって「Boyfriend」のそれ以上でもそれ以下で
もなかった。だけどこの森は僕が忘れかけた君に関するあらゆることを記憶し
ているような気がした。君と出会った場所に辿り着くと、.際にそのことを思
い出したけど、結局は「森の外」での君の生き様を知ることはできなかった。
君は一体四W一H?

真夜中に赤々と燃え上がる森。僕は森の向こう側へと自転車を走らす。砂漠を
越え、夜空を越え、世界の果てを越え、自分のImaginationを越え、
ノートパソコンの前に現れる。只今AM2:49、僕の白い脳はブルーベリー
ジャムを塗ったくられて沈黙している。僕はキーボードに視線を落とし、君と
お揃いの白金の指輪を見つめた。時がこの書斎空間の底へ沈んでいく。僕は眠


たい目を擦りながら夜明け前までにこの詩を書き上げようと思う。きっと僕は
「終わらない詩」を書き上げるだろう。此処は東京から遠く離れたロンドンだ
けれども、早生まれの鈴虫はきっと一匹もいないだろう。今から六年前、君と
最後にあった夏、僕と君の楽しそうなKAIWA、HANABIの音と匂い、
郷愁が目頭に集中する。

君はドライアイスのようにふいに僕の前から姿を消したね。.川→本幌→.
川→東京→ロンドン…。僕は他人に心の領域を汚されたくないからこれからも
世界各地を転々とするよ。環境や収入が変わったりして大変な思いをするかも
しれないけど、永遠に不変なのは僕にとって君は最初の「Girlfriend」で、君にとって僕は最後の「Boyfriend」ってこと。どうして君
にとって僕が最後の「Boyfriend」だと断言できると思う? …?

真夜中、僕の白い脳は活動を停止する。そんな時に心を揺さぶって詩作に励
むんだ。只今西暦2009年三月二十六日。まだ夜風は寒いです。でも、今ど
うしても2003年夏の夜風の生温さとあの匂いを思い出したいんだ。ベラン
ダに出て、細雪混じりの夜風に当たる。すると隣に現れるにっこりと微笑んだ
君。君に出会うまでの思い出が一瞬にして下らないものになった。心の軌跡は
思い出そのもの。そう今思えたよ、有り難う。

ロンドン、って言っても郊外だから街の星々が小さくぼんやりと灯っている
のが見えるだけ。「また新しい出会いがあるよ」。「こんな人付き.いの嫌い
な僕にもかい?」君が思い出の他に唯一残してくれたCrystal Kay
の「Boyfriend─part?─」のCD、をノートパソコンで流しな
がら夜明けが訪れるのをじっと待っている。











オルペウスの坂道



海を一望できる坂道の頂上に、昨日から染五.野が咲いた。

流れゆく春の雲とは逆に、それから遠ざかっていく外国の貨物船。

煙を上げ汽笛を鳴らし、もう.しでこの町の人間以外誰も知らない港へ到着
する。

ふいに朝食べたインスタントラーメンが食道まで上がってきて、.しひやり
とした。


染五.野の木の幹には、君の折り畳み自転車が立て掛けられている、胸が疼
く。

君は隣にいて、海辺まで続く桜並木が風に吹きつけられ、

花弁の呼吸は止まっていないのに木々から切り離され、この胸に引っ掻き跡
を残した。

貨物船が港に近付くにつれて、眼下の人々の動きが活発となる、そして喧噪
を生み出す。

この染五.野の花弁が遥か上空へ飛ばされていく様子を見ていると、

儚い想いは染五.野の枝とその花弁を繋いでいて透明だが、

粘り気の強い糸と繋がっているのではないか、という錯覚に陥る。

この景色は君との一生忘れられない沢山ある思い出の中の一つ。



君は東京、染五.野の幹に立て掛けたまま放置してある自転車は所々錆び付
いている。

長い春.が一週間続いた。

その間も傘を差し、鉛色に反射して茫漠とした海を坂道の屋上からぼんやり
眺めていた。

君の気配がこの体を包み込む。

僕はその防護により、ゆっくりと下りた、心の中の精神的・肉体的疲労を消
化させる。

怪物が肝臓病にかかり息絶えてしまった。

その為に頻繁に混乱し、寝込むことが多くなった。

近所の住人は口々に、ありもしない事.を他人に広めていき、

この港町に居づらくなってしまった。



それでも短い時間のアルバイトを探し、残りの時間は坂道の頂上から散りゆ
く、

桜の花弁の様を晴れの日も曇りの日も、そして.の日もじっと、

空の体調によって変化する寂しさが耳朶と頬の間をすり抜けていく。

生温い風に孤独さ特有の寂しさと哀愁をできる限り、

君から貰った傘を差して防いでいた。

坂道を下ったり上ったりしてくる人間は、皆人生に疲れ、

それに嫌気をさした者達は、桜の並木道の後ろの坂道を下りていく。

知る限りでは、その坂道を下りて行った者は、皆の元へ二度と姿を現さない。

君もまた、「東京」という現.の世界に存在しない場所へ夢を叶える為に、

僕の前から、この町から姿を消した。




凍り付いた海を一望できる坂道の頂上で、明日染五.野が開花するのを待っ
ている。

停滞する君への想いとは裏腹に、時代は僕の心臓の鼓動を核にして動いてい
る。

すっかり完全に錆び付いてしまった君の自転車を跨ぎ、やはり僕は、

いくつになっても、この港町の桜並木の坂道を下り続ける、そう、君の幸せ
を願う為に。











ラスト・ソング



「偉大な詩を書く為には、他人はもとより、自我からいかに離れて書くかが
大切である」。



歩く、視界が涙で滲む。しかし視界には何も映らない、滲んだ涙だけが現.
と認識させる。

僕の心はこれ以上拡大してはならない。ちょうどこのくらいの広さで詩を書
くのが良いのだ。

この唄を人生で聴く、最後の唄にしよう。突然波の音が聞こえ、潮の香りが
し、

光が降り注ぎ、目の前に青い壁が現れる。

どうやらこの壁は世界を二分するものらしい。

壁の上のラジオからは、日末人の女性アナウンサーが日末列島に起きた地震
とテロについて報道している声が聞こえる。