MARUYA-MAGIC
方八方、ただただ、何もなく、純白で、空と呼ぶ頭上の空間も、どこまでもど
こまでも同じ純白で埋め尽くされていた。
僕は泣いていた。だってこんな寂しい所に連れてこられたんだもの。すると
眩しくて顔の見えない人はこう言ったんだ。「ここはこれから全てが生まれる
場所だよ。だから決して寂しい場所なんかじゃないんだよ。君にはまだ難しい
話かもしれないけど、君が生まれる前、宇宙を含む世界は、一旦破壊してしま
ったんだ。無に戻す為にね。だからその時に、君のお父さんも、君のお母さん
も死んでしまったんだ。無に戻る瞬間に。この世界を偵察していたら、ちょう
ど君が自力でお母さんのお腹から出てきて、今よりもっと激しく泣いていた。
地上に降りて、末当は君も殺そうと思ったけれど、君を見ていたら、『この子
ならもしかして…』なんて思ってさ、此処に連れて来たってわけ」その人は爽
やかな笑みを零して言った。
「どうして全てを無に戻さなきゃならなかったの?」僕は胸の奥から湧き上が
ってくる素朴な疑問を発した。その人はこう返してきた。「今の君なら分かる
と思うけど、汚れている所は掃除しなきゃ何れ此方側の方にも拡大してくる可
能性があるだろう? でももう掃除しようとしても何もかも手遅れだったんだ。
それと、せっかく新品の世界を与えられたっていうのに、人間は、その恩賞も
忘れ、争いや破壊の輪から抜け出せなくなった。大多数の人間達が一生消えな
い罪を背負うより、誰か一人がそれを背負った方が良いだろう? だから…無
に戻したんだ」
僕は頷いた。そして再び辺りの風景を眺め回した。でもやっぱり寂しさは心
の中から消えることは無かった。僕はふいにとても不安になって、その人の温
かい手を握った。とその人は僕の潤んだ瞳を見てまた微笑み、僕の小さな両手
を大きな両手で包んでくれた。そして僕に向かって説教を始めた。
「さっきも言ったけれど、誰か一人が罪を背負う代償とは、無に帰した世界と
同じように、『死ぬ』ことなのさ。それは勿論自分のことなのだけれど、自分
がいなくなったら、君が今度は、『僕』の仕事を引き継がなきゃならない。つ
まり、君の想像力で世界を構築していくことなんだ。そして、今回と同じよう
に、もし世界を無に戻さなければならなくなった時には、君は自ら万人の罪を
背負い、『構築し直さな』いといけない。その前に、自分が君を連れてきたよ
うに、後継者を探さなければならない。これはあらゆる生き物達が新しい世界
で生の喜びを感じる為に、果たさなければならない宿命なんだ。それが永遠に
繰り返されるんだ。突然で悪いけど、君が最初にしなければならないことは、
前の世界の創造主を殺すことなんだ。勿論幼い君に殺意なんて持つことができ
ないことぐらい知っている。かつての自分もそうだったからね。この世の万物
を無に帰した張末人を抹消することなんだ。そうすればこの何も無い世界で新
しい生命が芽生え、全てが『また』新しく始まる。君はこれからもずっと今の
姿のままで、世界が人為的に終焉しかけるまで何もしてはならない。そしてそ
の様子を見てまた涙を流したら、世界を再び無に帰すんだ。そして君自身の後
継者を探して、今まで君に話したことをその子に話すんだ。最後に、君は万物
の罪の肩代わりの代償として、この世界から抹消してもらうんだ、分かるね?」
Easy Breezy
君はいつも独りぼっち。遠くから君を見つめる僕、君に僕のダイヤモンドの
ような心を溶かして欲しいと思う。.しだけ近付いた心、リノリウムの廊下、
小汚い窓、と太陽の陽光、僕はこの歌を聴いて、君よりちょっとだけ楽になり、
暗闇の湖の上を華麗に乱舞したい。突然君の声に聞こえだした「Easy、Breezy」。何処までエンドレスリピートで行きたい? ?貴方の行きたい
ところまで何処までも?、そう微笑んだ君、と耳許のダイヤモンド。あのね、
末当は君に?お気楽な存在?みたいな…。小結に太陽を隠された道化のように
近付きたかったんだ。同級生達によって焼失した人形屋、心の真下で高温を放
つ哀愁に似た憎悪、全ては夢を失った学校祭から。あの日は昨日みたいに大.
が降っていたっけ。
夢の領域を越えて助手席側が砂漠地帯のオフロードコースに似た地表をいつ
の間にか僕のものになった外国車で疾走する。ダイヤモンドのような心はオ
ン・ザ・ロックの氷のようにキラキラと輝きを増しながら融けていく。君の心
を見せて? あぁ、君が日末人であろうがなかろうが関係ないんだよ。人々は
ゴルフボールのようになった心を天に向かって打ち続け、それらが屋根のない
このスポーツカーに降り注ぎ、僕と君は同じたんこぶをつくる。
人々の害のある心を舌の上で転がしながら、君も足元からそれらを拾って真
似しながらいつまでも融けない氷をしゃぶり続けている。停止、逆行致します。
僕等は廃墟となった高等学校へ戻され続け、其処で有害物質を吐き出す。決し
て自分の心は戻さないように。
僕の育った町が僕のどうしようもない感度で涙に水没する。君は僕の為だけ
に歌い続ける。ポンコツオーディオの斜め四十.度をぶっ叩いて、再起動する
PLAY、僕は自動車免許なんて持っていないけど高台でエンジンだけ掛けて、
皮のハンドルをクイッ、クイッ、と動かし、「Easy、Breezy」を流
し続ければ、流星群の隙間を縫うように車は走り続ける。僕は?お気楽な存在
?。君は日末人ではない。※リピートをrepeat二回。
重低音は地球の心臓の鼓動。地下何千?から脳天に響き渡るrethem&
脊髄のreflesh。扇を広げるように太陽は南中し、CDをフリスビーに
して引っ掛かった僕等の高校の校旗のポール。一時停止、進行致します。跳び
箱の中に潜む腐乱した死体、何故か小学生と汚れた体操着、プール、鮫の群が
鯨を食い尽くす、真っ赤に染まった、Easy、Breezy? あらゆる事
象を確認してきた僕、廊下の宙に浮かぶ僕と出会う前の君、それっ、校内は無
重力、僕は君にとって初対面らしき僕と放送.へ窒素と酸素を掻き分けていっ
てまるでschool、jack、そして例のCDを…。君の根っからの孤独
と、僕の生きる糧の恋心を混ぜ.わせば、ビックバンが起こるだろうか? パ
ラダイス、ユートピア…。
僕は君がいれば他に何も要らない。だからずっとその唄を歌い続けて、夜空
を、星々を足場にしてどこまでも駆け上がっていって、鉛筆削りの滓を鰹節と
間違えないように、醤油をコーラと間違えないように、君以外の女性を運命の
相手と間違えないように、僕は頑張って龍になる。ぐらいの覚悟で勇気をくれ
た君に、今日の昼食後、いつも外界を見つめている君に声を掛けてみようと思
う、高校生活最後のFree Time。
イギリス倫.、ミッドナイト・チューブ
ウォータールー&シティ線の終電を醒めた視線で見送る、日末人の君。ホー
ムには人影は全くない。きっと全ての駅員は眠りに落ちて、君を此処から追い
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史