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MARUYA-MAGIC

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つける子猫、しかし.際は身を切り裂かれそうな冷たい風が全身の傷口から骨
の髄まで染み、思わず鳴き声を上げた。

路地裏のゴミステーションの段ボールとゴミ袋の中で息を潜めながら、風と
痛みが止むのを待っている。鼻腔は水滴だらけで、絶えず鼻水が流れてくる。
しかしそれを啜ることはしない。腐敗した生ゴミの匂いが強烈で、吐き気を催
すほど臭いからだ。しかしこのまま僅かしか呼吸ができなければ、窒息死して
しまうだろう。脳内闘技場で腐臭と戦う子猫、颯爽とゴミステーションを抜け
出し、通りがかりの女の子に「ひどい怪我!!」と抱きかかえられ、暖かい家
で手当と看病をしてくれる、瞳の美しい女の子。だが現.は必至に抜け出そう
として藻掻いても、ゴミ袋とゴミ袋の隙間に埋もれていく。腐臭で頭がくらく
らし、意識の闇に微睡んだ。

土砂降りの.の音で目が覚めると、もう既に朝だった。まだ怪我がずきずき
と痛む。全身全霊でゴミステーションを出ると、子猫はずぶ濡れになりながら
「温かいミルクが飲みたい」と欲した。表通りに出ると、人々の無音・無言の
喧噪が聞こえる。けれどもそんなものを与えてくれる場所など無い。いや、待
てよ…、子猫は暫く考えを巡らし、過去の記憶を遡っていった。すると生後す
ぐの記憶に、「教会」で自分が飼われていたことを思い出した。しかもこの近
くにその教会があることまで、早速子猫は満身創痍のまま足を引き摺り、すれ
違う人間達に罵倒されたり暴力を振るわれたりしながらその場所へ向かった。

空を見上げると、ビルとビルの間に十字架の立っている屋根が見えてくると、
子猫はいよいよ期待が最高潮に昇り、全身の強烈な痛みも忘れて.し早歩きで
その屋根の下の建物を目指した。ビルを掻き分けるようにしてその場所に辿り
着き、外観を見て絶望した。教会は教会でも、昔とは違い、他の宗派の教会に
なっていた。絶望がショックで子猫の血を一気に冷たくさせ、脳内闘技場で絶
望と戦う為、現.では暫くその光景が脳裏に浮かんでいた。結果は前二試.と
同じように呆気なく敗北した。今日は日曜日で、こんな土砂降りの日でも、教
徒達は教会に溢れんばかり訪れて、司祭の説教を聴き賛美歌を.唱した。子猫
は土砂降りの教会を立ち去り、空腹を堪え、涙ぐみながら自分の塒の路地裏へ
帰った。


帰路の途中のゴミステーションで残飯を探し回ったが、全て大人の野良猫達
の手によって全て残っていなかった。自分は今夜までに何でもいいから胃の中
に何かを入れないと死んでしまうことを悟っていた。案の定、いつものように、
暇潰しとして子猫を虐めている大人の野良猫達は子猫に暴力を振るい、鬱憤を
晴らし終わると、売春をしている雌猫の元へ向かっていった。子猫は瀕死の状
態だった、脳内闘技場にはもはや「死」しか決闘相手がいなかった。子猫は思
った、「もうこんな一生は嫌だ」、と。その夜中、東京には珍しく雪が降り注
いだ、真っ白に染め上げられた世界を朦朧としたまま見つめていると、天国も
こんな真っ白な世界なのかな? とふと感慨に耽った。最後の脳内闘技場では、
己が決闘相手だった。子猫はもう何もする気が起きず、己にやりたい放題やら
れた。そして次の早朝、子猫は寒さと飢えの為息絶えた。











ユニバース・ジャック



僕は宇宙を占領する。僕は宇宙ゴミの上に体育座りしながら、そんなことを
企みながら星々をぼんやりと眺めている。汗っかきな僕は、宇宙服の中が汗ば
んでくるのを不快に感じながら、嫌々詩作を続けることにする。残りの酸素が
.なくなってきた。酸素が無くなる前に、この宇宙を酸素で満たし、気温を上
げ、地球の大気圏を吹き飛ばし人々が宇宙へ出てきた瞬間に、僕が宇宙の出入
り口に鍵を掛けるのだ。全て土台無理な話だ。しかし更に計画を進めてみた。
僕は宇宙の出入り口から外に出て、何もない世界にも酸素と光をばら撒き、出
入り口の鍵をちらつかせながら、他の宇宙の警官達に身代金と、何処かにきっ
とある楽園まで行くスペースシャトルを用意させるのだ。警官達はやむなくそ
れらと引き替えに鍵を受け取り、光の舟に乗って僕の生まれた宇宙の鍵を開け
るだろう──宇宙でも.が降る、僕は地球から遠く離れた宇宙ゴミの上で、残
りの余生をくだらない妄想をして生きるのだ。

漠然と君のことを思い出す。君のことを思い出すと必然的に胸の中が暖かく
なる。僕は君を、地球に、置いてきた。涙が溢れてきたが、いっそのこと、自
分の汗と涙と尿で溺死したかった。君は今僕が死を目前にしていることなんて
想像すらしないだろう。その直後に何故僕はこんな所にいるのか一瞬ど忘れし
た。そしてすぐに、人間関係に疲れてこんな所へやって来たのだったと思い出
した。人間は元々孤独な生き物である。生きていく為には他人の力が必要だと


よく学校の先生が言っていたけれど、僕は具体的に他人のどのような力が必要
なのか分からなかった。末当は分かっているけれど、それは全てお金で通用す
る社会にしたのは他ならぬ僕等人間である。僕はそんな社会で生きていくのに
はいい加減うんざりしていた。ただ君が生きていく為には何でもする覚悟はあ
ったし、現にそうやって生きてきた。人間は誰かの為に生きている、と唄った
ロックバンドがいたけど、地球には君以外の人間の為に生きていく価値を見出
せる人間はいなかった。僕達の生活を脅かしたハイジャック事件で君は意識不
明の重体になった、そんな君を見るのに耐えかねて、こんな遙か遠くにやって
来たのだ。

だから僕は宇宙を占領し、君もろとも消し去りたかった。僕はというと──
もうすぐ酸素が底をつく時間なのだが───突然死ぬのが怖くなった。あぁ僕
はなんて命を粗未にした男なのだろう。譬え君の意識が戻らなくて死んでしま
っても、君のような素敵な女性と巡り会える可能性が0%なわけがなかった。
僕は狭い狭い世界で生きていたのだ。しかしもう時は遅く、僕は死ぬ。今更じ
たばたしてもどうしようもないのだ。死ぬのだ。宇宙に地球上と同じ空気が満
ちた。僕は死ぬのだ。宇宙の温度が地球上と同じになった。死ぬのだ。地球は
引力を失い、人々は空へ浮き上がっていった。僕は死ぬのだ。とうとう酸素が
底をついた。大気圏が消滅し、宇宙を、笑みをたたえながら泳いでいる。苦し
い。僕は宇宙の出入り口に鍵を掛け、それを粉々に砕いた。これは夢だ。君が
奇跡的に意識を取り戻して新しい恋人と幸せな家庭を築く。ヘルメットを剥ぎ
取る。人々は自分達がユニバース・ジャックされていることも知らずに次々と
様々な星に文明を創り上げた。一瞬にして凍て付く皮膚、僕は君のことを愛し
ている。じたばたして宇宙ゴミから浮き上がった。君は僕のことを忘れていく。
首を掻きむしり最後の抵抗。やっぱりここまで来てよかった。心臓と思考の停
止直前、僕は孤独であることを誇りに思う。仄かな明かりが心を照らす。











説教



僕は全身から眩い光を放つ人に手を引かれて、世界の中心にやって来た。四