MARUYA-MAGIC
う。このまま馬鹿げた日々を過ごしていたら。自分から革命を。動き出さなけ
ればならない。
人間は自殺しなければいけない生き物である。僕達は何か重大な勘違いをし
ているのだと思う。もう残り字数が.なくなってきた。これを「遺書」だと思
って末気で思いの丈を綴るつもりだ。
この地球上に善良な人間しかいなかったら、僕はまだ生きたい、と思うだろ
う。しかし現.は、とてもこの作文では表現し尽くせないほど、終わっている
といっても過言ではない。心の汚れた人間達に己の心を浸食されて醜悪な人間
になるのだけは勘弁だ。
記憶の中の醜悪な人間共が今になって夢へ、自発的な回想へ出てくるのは僕
が不安定だからだろう。彼らの輪郭を思い出すだけで吐き気がする。早くこの
世から消え去って欲しい、そして地獄で罪を償ってくれ。
そんな苦悩の.間、.間に僕は真夜中に家を出て、望遠鏡を持って君と天体
観測へ行く、神様、どうして僕達は引き裂かれてしまったのでしょう? 引き
裂かれてしまったのにどうして隣に「君」がいるのでしょう? ふいに悟った、
─天体観測が鍵になって「君」が閉じこめられている塔の扉を開けたのだ、と
ね─、君は途中にあった自動販売機でホットコーヒーを二つ買って、僕の分に
一つおごってくれて、その暖かさは骨の髄まで染みた。もうすぐだ、東京の雲
の上まで、ベルリンの森まで、もうすぐ。
街の郊外には草原が茫漠と広がっている。寒さのせいか白い針地獄のように
見えなくもない。僕等は此処で天体観測をすることにした。晩秋なのに冬の星
座の一部が地平線の彼方から顔を出している。僕は幻滅した。僕の心の中の夜
空がその影響で同じような状態に陥り、僕の秋は消滅してしまった。しかし望
遠鏡から覗くことが出来る星々を観測していると、僕は世界から隔絶された気
持ちになり、閉塞的な心が完成した。誰にも立ち入ることが出来ない心の世界、
君以外を除く全ての人類に対して、もう非常に馬鹿げたことに対して憤怒した
り、混乱したり、死にたくなったりしたりすることは無くなるだろう。僕は今
までに会った人間として不完全な失格者を一生恨み続ける。お前等には生きる
価値や、他人を押し退いて幸せになる資格など無い。悔しかったら僕と対等な
立場になってから罵倒し.おうじゃないか。お前等のレベルに.わせて議論す
ることは真っ平ご免だ。それら以前にもう二度と君達に会うつもりはないから
せいぜい後悔の念に死ぬまで苛まれ続けることだ。お前等など自殺しようが死
のうが何も悲しくない。寧ろほくそ笑むであろう。それだけお前達は僕を死の
極限まで追い込み、その時その時が楽しければいいという浅はかな考えで生き
ている下等動物なのだ。
八年前と変わったのは僕が車の免許を取り、君を乗せ、天体観測器具を積ん
で、世界中で星を観察していることだけだ。.だに「天体観測」を心の中で君
と口ずさみながら。
ギブス
椎名林檎の「ギブス」をなんとなく聴いていたら、「君」を掻き立てるimaginationが留め処なく溢れてきて、それすらも包み込むような地球
が見えたんだ。
頭の中の宇宙が外界の気温ぐらいちょっと冷たい。末物の愛とはそれのよう
に.し冷めているものなのかもしれないね、と近所の小さな可愛らしい女の子
になんとなく告げてみるけど、やっぱり僕の考え方は.しおかしいのかしら。
でもこの歌は僕の火傷しそうな程の熱い心を冷やしてくれる。やっぱり愛、っ
て、僕の性格、って、冷たいもので大雑把なのかもしれない。けして適当にこ
の詩を書いているわけじゃないよ、時間が進むのが早過ぎる、そして、人生と
は短過ぎる。
喉元にイナズマ、ココロの避雷針、今日の喉の具.を診させて貰います、さ
ぁ、あーんして、さぁあーんとして。
「ギブス」を聴いて四回目の時に、ようやく稲妻が心に直撃した。あぁ視界
が真っ暗になって、眼球の毛細血管がレントゲンを撮ったように真っ白に映る。
この言い様のない心の震え、巨大なウーハーのように、巨大なアンプのように、
もっと爆音を鳴らしてくれ爆音を鳴らしてくれ爆音を鳴らしてくれ、芸術とは
爆音なのだから…。僕はクローゼットからカバーを失った埃まみれのエレキギ
ターを取り出して、見様見真似で鏡の前で「ギブス」を弾いてみる、君とあの
子が性交で、君とあの子が性交で…、時間が止まる、僕は空中を漂いパスタの
ようにミートソースに絡み取られる。
不条理が何だってんだ!! 僕は君を愛してるよ! 僕は君を愛してるよ!
僕は君を愛してるよ! 大サビを大絶叫する。散歩中の犬が帰ってこないうち
にこの詩を書き終えよう、「…い、今まで何したの?」、「散歩だよ、独りで
ね」、みたいな会話はやりたくない。
unnn……、瞼を閉じれば、君の脊髄辺りのような毛細血管が僕の脳裏に浮
かぶ、眠
たいだけでしょう? ほねっこ食べて〜、眠たいだけでしょ? ほねっこ食べ
て〜、僕の彼女にがっつくな!! 「君、自分に才能があると思ってるの?」、
それには答えられない。「自分の詩集に絶望するなよ」、そう、彼は僕の編集
者なのだ。脳を洗われる、再び午前.時に洗濯機が止まると、僕は自分の白い
脳を取り出し、元の位置に収めた。フローリングで寝そべっている彼。可哀想
な君。「ギブス」の素晴らしさを上手く表現できない僕。.来の見えない夜の
街道。ほねっこを囓る昼間の彼。一日の中を延々とタイムワープしたい僕。摩
天楼から羽ばたきたい君、にキスをしたい。「今からでも遅くないよ」。
インフルエンザにかかって二度目の診察の彼、問診が終わるとクリーム色の
毛並みの彼は、「さぁ、行こうぜ」、って僕を患者達からひどく辱めて金も払
わずに病院を出て行ったんだ。でも薬局で薬を貰わないといけないから、一日
は延々に繰り返したがるし、僕は巨乳の看護師になけなしの診察代を払う代わ
りに、窓口の生産係に払ったよ。君が巨乳かどうかは微妙だけど、僕は君のお
っぱいが大好きだ、ヘンタイと思われるかもしれない、だけど男だから仕方が
ない、それで性欲を掻き立てて性交へと導くのだから…。僕は決して悪くない、
君に乳房があるから悪いんだ。そして君が女の子だから悪いんだ。僕は今日も
君を想って「ギブス」を聴き続けるよ。僕は延々と「今日」という退屈な一日
を繰り返し生きながら、君を愛し続けるよ…。
20th Century Boy
今や過去の人間と化してしまった、「20th、Century、Boy」。
しかし彼の中には中陽子爆弾を遙かに凌ぎ、このちっぽけな宇宙をもぶっ飛ば
せる、強大な力と想像力がある。時代の、時間の流れに逆らい、「無」、つま
り始まりの世界で、新たな世界を創造するのだ! 彼にはそんな力と想像力が
ある。彼はその世界の中心で、「無」を満たす「虚無」という巨大なアンプに
エレキギターを繋ぎ、T.Rexの「己の唄」を演奏し、大絶叫するのだ。そ
うすれば彼の掻き鳴らす音や、歌声は「無」の世界に、何らかの形を残し、そ
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史