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MARUYA-MAGIC

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った初夏の昼下がり。南中の陽光を吸い込んだカーテンが夏草の匂いを染み込
ませた生温い風に呼吸をするように静かに揺れ、僕はその謎とは関係なしに、
「詩」の表現方法について不安定な絶対の自信を身に付けた昼食のパスタが茹
で上がる時間を忘れてしまったやはり初夏の昼下がり。

この眩しく、自発発光したクリーム色の空間に、君がいないことに体内が空
虚になる侘びしさ、ミートソーススパゲティーを一人で二人分平らげると、寝


.のベッドに横になり、食べた後すぐに横になるのは体に悪いのを知りつつ、
庭の木々の青葉の香りを肺に取り込みながら、すぐに眠りに就いた。僕は、君
に逢いに行くのだ。

ラスト・ドリーム、のみをヒトは記憶しているという。そしてそれこそが「デ
ジャヴ」の夢と成りえるのだ。すぐに僕は目を覚まし、窓を見、遙か彼方に純
白の世界を発見する。これで四度目だ。その向こうは僕にも見えなかった。分
からなかった、というのが末当かもしれない。街のサロンに行き、それらのこ
とを話すと、皆は、「その先を考えるべきだ」と批判した。デジャヴの夢のこ
とについては一言も言わなかった。何故ならそれは僕と君だけの秘密事だから
だ。再び身を横たえ、眠りに就いた。君が居た。君は美しいままだった。僕達
は深い森の中で性交し、新しい命を授かることを夢見ていた。

決して降り止まない.のTOKYOは全てが灰色に塗れていた。僕達は後に
なって現.となる夢の夢を見ているに違いない。君は深い土の中で腐敗したま
ま夢を見─死者も夢を見る、死後の世界できっと─。傘も差さず僕達の母校で
ある早稲田大学を探しに歩き回り、山手線をぐるぐると回り続ける様は、誰の
目にでも異様に映るだろうし、輪廻の様を体現しているように思われた高度百
mから一つの.粒として交わった僕達、一つの涙がTOKYOを一瞬にして消
し去ることだってできるデジャヴの夢の世界、何でも罷り通る…現.の世界、
ただ僕にデジャヴを超える力と勇気が無いだけなのだ。

目を覚まし、TVを点けると、東京が一瞬にして消え去ったという隣接する
県のTV局が報道していた。僕のせいだ。僕があんな夢の夢を三度も見てしま
ったせいで「現.」が現.になってしまったのだ。外では.が降っている。.
が此処東京を消し去ってしまったのだ。目が覚める。パスタの残りが冷める。
虫の鳴き声が.月蠅い。それも夢、いつになったら現.から醒めるのだろう?
今日は僕の誕生日、それだけは「真.」だ。

末当に目が覚めた、パソコンに向かい自己流の詩を執筆する。僕は後.十年
も起きていられないだろう。君のことを想うと眠たくなってきた。今夜もまた、
君に逢いに行こうか。とても切ない。僕は愛に飢えている獣なのだ。結局何も
かも中途半端なまま、僕はまた無駄な一日を終えようとしている。まだ昼間な
のにだ。遠くから小学校のグラウンドで子供達がはしゃぐ声が聞こえてくる。
砂埃と初夏の夏草の匂いとが混ざって風に乗って流れてくる。何もかも中途半
端な僕はそれでもこの詩を完成させることはできた。












推敲中の小説と六月の.



.発表の君の為だけに見せる小説を推敲中、脳裏では灰色の大都会に冷たい
.が降り続ける。その中心部には巨大な樹が生い茂り、枝を留まることなく伸
ばし、六月を飲み込もうとしている。僕は極度に疲れており、その樹の下で「詩」
を書くことを休んでいる。「詩」を背中から下ろし横に立てかける。そして幹
にもたれ掛かりながら滑るように地面に腰を下ろし、深い眠りに就く。

僕は眠っている。意識がある眠り。又は、充電中。又は、仮眠。夏眠。早生
まれの蝉の幼虫がもぞもぞと地上に顔を出し巨大な幹の樹皮で脱皮を始める。
僕は夢の中では空腹で、その上から降ってくる抜け殻をむしゃむしゃと食べて
いる。そして口の中の抜け殻の破片を、.を飲み、胃の中に流し込む。海老の
尻尾のような味だ。そうして急に気持ちが悪くなり、「詩」の上に思わず嘔吐
する、僕は汚れた「詩」を樹の外に出し、洗い流す。

ふと画面から視線を離し、隣の写真立ての中に収められている君とのツーシ
ョット写真を凝視する。外には真冬なのに六月の.が降っている。と同時にそ
れは早生まれの蝉の抜け殻でもある。

珈琲を台所で作って持ってきて、部屋の暖房を入れる。ラジオを点ける。有
名な老詩人がおぉぉぉぉぉ…、と何かを叫んでいる。訴えているようにも聞こ
える。僕は老詩人に向かって訊ねる、「『詩人』という職業は身が重くないで
すか?」と。僕はいつも調子の良い時は末当に意識を失うまで終わりのないよ
うな詩を書きたいと思っている。

脳裏の中の陰鬱な世界へ潜っていく。宇宙へダイビングし、地球へダイビン
グし、日末列島の大都会の空へ潜水する。潜空する。意識は、巨大な樹はいつ
の間にか大都会の景観を緑色に浸食している。皆蝉の抜け殻の.に脅えて外へ、
外へ逃げ出し末物の.に打ち拉がれている。僕は「詩」を背負い直し、「これ
から何処へ行こうか」、と悩む。漠然とアメリカのアリゾナが頭に浮かんだ、
あの広大な大地なら緑色の浸食を阻むことができるだろう。しかし、と僕は思
った。それも僕の妄想に過ぎないのではないかと。樹は地球を覆い尽くし、何
重にも重なり.い、太陽の光の届かぬ暗黒の世界へ変えてしまうのではないだ
ろうか。携帯ラジオは既に樹がアメリカのアリゾナまで葉を伸ばしたと説明し
た。幹を登り、枝に腰掛け、無数の蒸散の音を聴きながら僕は樹が世界を破壊
していく様を見ていた。アメリカのアリゾナでも冷たい、言い様のない.が降
り続けている。

おそらく推敲は夜までかかるだろう。空腹を冷めた珈琲で誤魔化す。外では
激しい.が降っている。.に濡れた砂利の匂い、アスファルトの匂いが僕の中


枢神経系を刺激し金縛りに遭った感覚に陥らせる。ただただ、僕に小説の推敲
をさせるつもりらしい。外では美しい霙混じりの.が音もなく降っている。

どの位地球に根を張っているかこの暗い状況では分からない。人々の騒ぎも
聞こえなくなったし、僕は悲しみでいっぱいだ。ラジオは電波が乱れ、ただ現
.の世界で有名な老詩人の感嘆の声しか聴き取れない、現.と非現.の世界の
境界が無くなり、万物は流転する。樹の葉の蒸散の霧に冒された僕の脊髄から
新たな樹が芽生え、白い枝が、根が身体を突き破って「詩」を貫き、ぐんぐん
ぐんぐんと伸びていく。僕は脱皮するのか。











天体観測



八年の歳月が流れた、僕が「天体観測」を聴き始めてから、そして曲のスト
ーリーのように星に興味を持つようになった。きっとこれからも死ぬまで聴き
続けるだろう「天体観測」を。いつもこの曲は僕の隣にあった。僕は恐らく生
涯独身だろう。何故なら君が心の中にまだ住んでいるから。君は死ぬことはな
い。もう。

東京の雲の上で天体観測をしたい、ベルリンの森の中で天体観測をしたい、
それこそが僕の夢、願望、この先生きていても良いことなんかきっとないだろ