ある詩人による光の世界と星々の戦争の話
と難しい顔で言いました。
「でも君達なら、この戦争の首ぼう者である将軍を説得できるかもしれない。手紙を書いている時間はないから、直接交しょうしに行くしかない。将軍はこの空の一番高い場所にある、星の神でんにいる。道中様々な困なんが待ち構えているかもしれないが、月のふたが閉ざされるクリスマスまでにそこに行かなければならない。私は地上を守らなきゃいけないから一緒に行くことはできないけれど、君達ならできると信じているよ。そうすれば同時に君達の世界の戦争を終わらせるという君達の願いもかなう」
サンタクロースさんはパイプの煙を吐き、私達を交互に見つめて、深くうなづきました。
「僕達星とあなた達は、命がつながっているから、片方が死ぬともう片方も死ぬんでしまうのです。マリアさんは心が死んでいなかったから僕の恋人も生きながらえることができたんです。きっとあなたを想う気持ちがそうさせたのですね」と星の子は私に言いました。「でも彼女が殺されてしまうと、えいえんにあなた達の世界とこの光の世界との間の暗やみの世界で苦しみながらさまよい続けなければならないでしょう」
マリアの顔は真っ青になって、首を激しく横に振りました。
「必ず星の戦争を食い止めましょう」とマリアは真剣な顔で言いました。
「必ずこの世界を平和にして、僕達の世界の戦争も止めさせるんだ。そして世界中でクリスマスプレゼントを楽しみに待っている子供達のためにも」と私も言いました。
旅立ちにそなえもう一度ぐっすりと眠って、夜中になると支度を始め、とうとう出発の時が訪れました。サンタクロースさんにセーターを借り厚着した私達はけががすっかりちゆした星の子の背中に乗って、それでも肌寒い空へ浮かび上がりました。サンタクロースさんは、「気をつけて行くんだよ!!」と叫んで、私達を見送りました。星の子の大きな背中はとてもポカポカしていました。
「上ではもっと凍えます。決して無理はしないで下さい。途中雲の上で休むこともできるから」と星の子は心配するように言いました。私達は雪の吹き荒れる中、上へ上へと昇っていきました。
「そろそろ第一のなん関に差しかかってきたみたいだね」
と星の子は呟きました。上空を見てみますと、なんと、数え切れない数の流星群がおそいかかってきました。視界がとても悪かったのですが、星の子は上手くよけて一つも流れ星に当たりませんでした。
「すごいわ!! 見事にかわしたわね!!」とマリアは叫びました。すると、さらに数が増えて目の前がまぶしくなったのでずっと目をつむっていました。
なんとか流星群から逃れることができると、「あの無数の流星群は、〝特攻隊〟という星達で、命を捨てて地上をはかいするように将軍が命令したんだ。将軍は自分がこの光の世界の支配者になって、思うがままにしようとしている。いずれはあなた達の世界もしんりゃくするつもりです。でも星達がしんりゃくしてくるなんてあなた達の世界に住んでいる人達には分からないから、てんぺんちいだとご解したまま世界は終わってしまうかもしれません。まずはこの光の世界から、ということです」と星の子は真剣な表情で言いました。
しばらく進むと今度は巨大な星雲がいくつも見えてきました。だんだん近付いて行くと、星一つ一つがぶきやぼうぐを付けて激しいこうぼう戦をくり返しているではありませんか。私達はその間にわりこんで、「争いを止めるんだ!!」と叫び、対立している星達を引き離しました。しかし兵士達は今度はひょうてきを私達にうつし、銃や矢やたいほうのたまなどを発射させてきたので、一たんその場を逃れ、しばらく遠くの上空からその様子をながめていました。無数の星達が勝っては負けて、流れ星となって夜空にきせきを残しました。この争いは将軍からの命令がない限り、決して治まることはないと星の子は言いました。自分達の無力さをくやみながらも先を急がなければならないので、星々の争いをさけながら、私達は奥深い星雲の中を飛んでいきました。
星雲をやっとのことで脱出すると、雲を抜けて、上空へ浮かぶ星の神でんが見えました。すみ切っている夜空を見上げると、星と星をつないでおそろしい怪物や兵器の星座をかたどっていました。
「空にはぶきみな星座が浮かんでいるわね。星と星をつないでいるのは何なの?」とマリアが星の子に聞きますと、
「将軍の飼っている巨大なクモの糸だよ。捕りょにされた星達が逃げないようにああやって空にはりつけにしているんだ」と星の子は深こくな顔で言いました。
星の神でんに着いて、下を見ると、雲の海が広がっていました。
「ここが空のてっぺんの星の神でんか」
「捕りょになった生きた星達をけずったブロックで造った神でんさ」と星の子は怒りをおさえるように言いました。
巨大な神でんのごうかにそうしょくされた門の前に立つと、勝手に門が開き、中庭の美しいちょうこくのふん水の前に、見たことも無いくらい巨大なクモの上に、星の将軍が立っていました。
「…将軍様!! どうかこの意味のない戦争を止めて下さい。でないとこの方々の世界の戦争も終わらないのです。そして僕の両親と恋人を返していただけませんか?」
と星の子がこん願すると、将軍はぶきみに笑って、
「それは不可のうだ。私はこの光の世界でもお前達の世界でも支配者となるのだ!! 役に立たない皇帝は殺した。私の野望をじゃまする者は皆死んでもらうのだ!!」とマントをひるがえすと、クモはとつぜん糸をふん出させて私達をぐるぐるとまき、大きな口を開けて私達を飲みこもうとしました。
もうだめだ!! そう思った時、夜空の怪物の星座の目玉の二つの星が糸からだっ出して、ものすごいスピードでクモの体をつらぬきました。クモがひっくり返ったのを見はからって、私達の糸を解いてくれました。それはなんと、星の子の両親でした。私達は自由になると、星の子の背中に乗って、夜空にはりつけられた星達を助けていきました。クモが動かなくなると、将軍は飛び上がって、星の子の恋人を空から引きはがし、人質にしてじりじりと神でんの端まで引きずってつれていきました。その時私達や助けた多くの星達も将軍につめ寄って八方ふさがりにすると、くるったように笑いながらふところから銃を取り出し彼女に突きつけて引き金を引こうとしました。がそのしゅん間将軍の背後から一匹の星がその銃目がけて体当たりしました。銃をうばわれてしまった将軍がおたおたしているすきに、星の子が恋人の手を取ってすばやく引き離しました。その間に私達は一せいに将軍を取り押さえました。するととつぜん神でんがくずれ始めたので皆手に手を取り合って脱出しました。地上へ下りていく時、無数の星雲が見えましたが、将軍が失きゃくし神でんがくずれたことを知ったのでしょうか、星達は皆、争い事を止めました。
地上へ着くと将軍は自分のあやまちを素直に認め、深く反省して皆にゆるしてもらいました。とうとう、星の戦争が終わったのです!! みんなに笑顔が戻り、戦争が終わったことを記念して、星々の祭がせい大に行われました。
作品名:ある詩人による光の世界と星々の戦争の話 作家名:丸山雅史