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文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース

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セスしてみた。が、しかし、あまりの数の来客数の為か、サーバーに負担が掛
かりすぎて、一向にサイトに入ることができなかった。

「時間を置いて再度アクセスして下さい」

というメッセージが出ていたので、携帯電話から公式サイトへ入ろうとした
その時、また彼女からメールが来た。

「貴方の好きなバンドの新作アルバムがオークションで高額取引されているわ」

という文章を確認した瞬間、猛スピードで携帯から公式サイトへ滑り込んで
入ると、「新作アルバム発売休止」というでかでかとした文字が目に飛び込ん
できた。君のバンドのメンバーやスタッフ達の謝罪文も載っていた。一階から
TVの音が聞こえてきたので、半ば放心状態で肩の力が入らず、居間に戻って、
夕刊の君に関する記事を暗記するぐらい読み、何度もチャンネルを変えたが、
報道していることはほぼ同じ内容だった。僕は携帯電話からオークションのサ
イトに入って、君のニューアルバムの検索をすると、一枚三千円ぐらいのアル
バムが、その十倍以上の値段でオークションに掛けられていた。今回の事件を
要約すると、今日、正午前、君のマンションに君の父親がお金をせがみにやっ
て来て、長い討論の未に喧嘩沙汰になり、君の父親が帰る間際、硝子の灰皿で
君が父親の後頭部を強打し、そのままその場で父親は息を引き取ったというこ
となのだ。僕は、去年、君が父親の存在を憎み、そういう自分への嫌悪感につ
いて僕に打ち明けていたことを思い出した。けど…。譬え?君?がどんなに父
親を恨んでいても、殺害などする次元に精神が位置づけられているとは到底思


えなかった。確かに、君は?君の父親?に殺意すら抱いていた。当時の精神状
態だって尋常じゃなかったかもしれない。しかし、殺意を抱くことと実際に殺
害するのは違うはずだ。僕には、?僕が尊敬する君?には、その感情を抑制す
る能力を備えられているはずで、殺害にまで到達するだけのエネルギーに変化
する程の要因が化.されたというのだろうか。だからとはいえ、憎しみを作品
に昇華させる思考回路がパンクしたとも考えられなかった。真面目で、全てを
受け入れ包み込むような寛大な性格。でも、脳裏に映し出される現実は、僕の
中の?君?のイメージを抹消させ、「容疑者」という単語が、煙草の吸い過ぎ
のように肺を、どす黒く疼かせ、心はガンの腫瘍ができたような痛みを覚えた。
僕は急に軽くなった携帯電話を落とし、?心の中のどこかでは、涙腺を緩ませ、
安堵している自分を見つけた?。それはやはり僕が君に嫉妬していたからかも
知れない。その自分の内面が、解放感に満たされていることで、疲れた眼球を
癒していた。景色は、?僕の身勝手な苦悩?までも、頭に正常に血が巡ってく
るまで、無にしていた。しかし、どこの局も次のニュースに移ると、僕の体中
に、途轍もない焦燥感が駆け抜けた。僕は何度も夕刊の一面と社会面の記事を
繰り返し読んだ。?君?の顔写真や、東京の自宅マンションに青いブルーシー
トが掛けられ、捜査員の誰かの上着を頭に被された状態で搬送車に乗り込む君
の姿が写し出されていた。僕の心臓に還ってくる血液が、或いはそれ自体が、
凍結してしまいそうな程冷たく感じられた。僕は胸を突くような痛みと止め処
なく溢れてくる涙を抑えきれなかった。どの位だろうか、君との思い出が、悲
哀によって失われた正常な感情を穴埋めする為に、必然的に甦ってきた。僕は
精神の、自己防衛機能を激しく恨んだ。衝動的に自分自身を抹殺したくなった。
だが、?結局は?君が犯罪者になってしまったという現実に引き戻されると、
それらの感情は水没し、僕は広げていた夕刊を、ぐしゃぐしゃに丸めてTVに
投げつけて、無我夢中で二階へ駆け上がり、パソコンの電源を入れてインター
ネットに繋ぎ、恐る恐る君の公式サイトを開いた。掲示板には凄まじい数の批
判が書き込まれていた。事件が発覚してからの書き込みに全て目を通したが、
君を?庇う?書き込みなど一つもなかった。僕も君を?庇う?言葉はすぐには
浮かんでこなかった。?事実に洗脳されていた?からだ。しかし、涙腺から体
中の水分を流しきって干涸らびたような身体と感覚器官は、いつもなら常に確
認するインターネットの接続時間さえ感じることもなく、正に頭が真っ白にな
るような放心状態がどの位続いたかも分からなかった。ただ、?自分に肉体と
いうものが存在するということを再発見した時?に、僕は両手の指を浮き上が
らせてキーボードに静かに置き、?君?の身の潔白を証明するが如く、何時間
も何時間も、底のない想いをただひたすら、連投書き込みをした。時々君に対
する批評から僕に対するレスを書き込んでくる者がいたが(おい、このきちが


いをどうにかしろ、などという旨のものだったが)、それは眼球に通して後頭
部の皮膚の毛穴から蒸気として排出し続けた。



やがてサイトの管理人(おそらくは君のバンドのレコード会社の人間だろう)
と名乗る者が掲示板に一言だけ書き込みをした。

「大変申し訳ございません」

そしてとうとう僕は書き込みができなくなってしまった。更に、そのサイトへ
のアクセスが禁止にもなり、携帯電話のサイトまでも、閉鎖されてしまった。
その日から大学院の授業には出ずに、携帯電話から日末一巨大な掲示板を一日
中閲覧していた。もう僕には書き込むことが何一つ無かった。







【二月】



ライトが一つだけ点された文芸誌コーナーに、去年の十一月のように、君は先
に僕を待っていた。遠くからでも分かるぐらい、君は髪の毛がボサボサで、無
精髭を伸ばしていた。いつもなら僕と.流するまで煙草でも吸っているはずな
のに、両手は.し力を込めて握り締められていた。僕が近付いていくと、無精
髭の君は.し間があった後、だらしなく右手を挙げ、いつも通りの微笑みで僕
を迎えた。

僕がいつもの二倍くらいゆっくりとした歩調で、複雑な心情のまま文芸誌コ
ーナーに着き、彼と面と向かうと、僕よりかなり背の低い彼は、暫く僕の瞳を
見つめていた。それから十数秒目を伏せて、瞼を上げると、とても長く感じら
れた溜め息を吐き、つるつるのフロアーに伸びる自分の影と微かに映る自分の
顔を見つめ、胡座をかき始めた。僕は君が再び中腰で立ち上がって、「三月号」
の文芸誌を白い棚から一つずつ丁寧に床に並べ、ぺらぺらとページを捲り始め
たのをずっと立ち尽くして見ていた。?此処にいるのはもう僕の慕っていた君
ではない。ただの殺人の罪を犯した男?だ。君の頬は痩せこけ、無精髭に覆わ
れ、全身が以前より更に細くなり、瞳の輝きでしか君からは生気を感じられな
かった。僕に言い様のない怒りと、悲しみが交互に胸の中に巡ってきては、そ
の度に中々第一声を発せられない緊張感で金縛りに遭ったようだった。

君はある文芸誌の最後のページまで目を通し、.々荒っぽく置くと、再び溜
め息をつき、ゆっくりと瞼を上げて僕の顔を見た。

「拘置所じゃ文芸誌なんて読めないよ。誰も差し入れになんか来てくれないし