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文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース

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高級そうな時計の秒針が静寂の中、刻々と過去を置き去りにし、現在を圧迫死
させ、.来を不安視させていった。.なくとも、僕の心と共鳴した秒針の音は
そう思わせた。

「…さぁ、暗い話はもうここまでにして、お酒でも飲みながら、肴でも食べて、
今月号の創作文芸の話でもしようじゃないか」

そう言うと君は、酒を一気飲みし、アルミ缶を空にして、新しい発泡酒を開
け、一口飲み、床に並べられている文芸誌を一つ取った。

「じゃあ、今月号の文芸誌の中で、僕が一番気に入った新鋭作家の作品につい
ての批評から始めていいかい?」

君は屈託のない笑顔で僕に語りかけた。



先程までの沈鬱さが嘘のように(酒を飲んでいて気分が再び上向き加減にな
ったこともあるが)君の笑顔を見る度に、僕の心は晴れ渡っていき、今まで重
くのし掛かっていた悲しさや寂しさなどを忘れていった。僕は時には真面目に
君の批評を聴いたり、時には去年の企画ツアーの時のような饒舌なジョークに
爆笑したりして、楽しい時間を過ごした。カウントダウンフェスティバルは、
東京や大阪でやっていたので、資金繰りのできない僕と彼女は行くことが出来
なかった。去年のクリスマスに、彼女へペアリングをプレゼントした為だ。

「でも、貴方の好きなバンドが出演するカウントダウンフェスティバルに行け
なくなっちゃうんじゃない?」


彼女はとても喜んでくれたが、そう僕を心配した。僕はそう言われると確か
に.しばかり後悔の沼に沈み込んでいくような気分になったが、雑念(君の事)
を振り払って、彼女の澄み切った瞳を穏やかに見つめた。

「いや、気にしないでよ」



「カウントダウンフェスティバルに行けなくてごめんね…」

君は批評を中断して.し吃驚したように顔を上げ、.しの間沈黙があった後、
君は人差し指で僕の左手を指した。

「気にすることないよ。末当は北海道でもカウントダウンフェスティバルをや
れたらいいんだけど、なかなかそうもいかなくてね…。君の来られなかった理
由はなんとなく分かる。クリスマスに彼女にそのペアリングをプレゼントした
んだろう?」

僕ははっ、として、自分の左手の薬指を見た。そこにはペアリングが嵌めら
れていた。

「今夜会った時にすぐ気付いたよ。君達は結婚願望とかあるのかい?」

君の左薬指には末物の結婚指輪が嵌められており、一つだけ点いている照明
で輝いた。僕はそれに.来を思い浮かべ、

「多分大学院を卒業して働いた後か、…もしもの話だよ? …小説家としてデ
ビューしたら結婚すると思う」

僕は君に初めて内心を打ち明けた。

「そうか。そうなんだ」

それ以降、その話について君は何も喋らなかった。その後、僕の気に入った
作家の批評をしているうちに、朝日が昇ってきて光がこの空間にも差し込んで
来た。

「もう時間だね」

君は涼しげに微笑み、文芸誌や周りのゴミを片付けて、入り口の方へ歩いて
いくと、此方へ振り返って、逆光の中、いつものようにだらしなく右手を挙げ
た。







ニューアルバムの発売が公式サイトに発表され、発売日の前日、僕は興奮の
あまり、中々寝付けなかった。外は猛吹雪で荒れていて、この調子だと明日の
大学院の一時限目は休講になると予想した。明日になれば教授からメールで休
講の知らせが来るだろう。そのこともあってか、だんだん気持ちが落ち着いて


きて、次第に強張っていた全身の力が抜け、?明日一番に店屋に行ってアルバ
ムを購入しよう?と頭に思い浮かべたのを最後に、僕の意識は途切れた。



しかし、はっ、として目が覚めて置き時計を見た時には、正午も間近で、カ
ーテンを開けると、からっとした青空が広がっていた。僕は目覚まし時計をか
けていたのだが、その音にも気付かないぐらい深い眠りに就いていたらしい。
咄嗟に母親の顔が思い浮かんで、どうして起こしてくれなかったんだと文句を
言う為に、急いで服を着替えて、階段を降りてきたのだが、家の中は蛻の殻だ
った。その幼稚じみた怒りの冷却消滅と同時に、君のバンドのニューアルバム
を朝一番で買えなかったことへの後悔と、急いで店屋に行かなければ、という
焦燥と、それよりも、今日の午後にはどうしても落としてはいけない単位の授
業があることをこういう時に限って思い出し、食パンを口に詰め込んで、珈琲
で胃に流し込み、家を出た。

地下鉄までの道程の途中で、やはり予感が的中した教授からのメールを見て、
心のある一面は安堵感に満たされたが、三時限目の授業に間に.うかどうか微
妙だったので、一瞬アルバムの事は忘れていた。しかしすぐに、その事が頭を
過ぎり、僕は先程の後悔を改めて思い出すと、恐らく五時限目が終わった後に
店屋に寄った頃には既に売り切れていて、数日待たなければならないだろうと
悟った。こんなことならアルバムの予約をしておけばよかったと、今更間抜け
な自分を酷く憎んだ。



最後の授業が終わって、疲れと後悔で生気が無くなった自分の表情を、廊下
の硝子の反射で見た。昨晩と同じように、地上は吹雪で荒れ狂っていた。イン
ターネットで注文しても時間がかかるし、ダウンロードでは物足りなく、僕は
更に落ち込んだ。その時だった。突然君のバンドの曲の着信メロディーが流れ、
携帯電話を見てみると、彼女からのメールが受信されていた。

「貴方の好きなバンドのボーカルが?父親殺し?の容疑で逮捕されたってTV
で報道されているわ」

僕は一瞬、思考回路が全て吹き飛ばされた気がした。



?何??、?君が??、?父親を殺したって??





どうやって自宅へ帰ったのかさえ記憶に無い。ただ僕の体は軽くなり、羽の付
いた天使のように飛ぶように帰ってきたということだけだ。自宅には誰もいな
かった。郵便受けから夕刊を引き抜き、居間で広げると同時にTVをリモコン


で電源を入れ、片っ端から番組を変えていくと、どの局も君の報道をしていた。
僕は鮮明な現実を叩きつけられ、眼球がそれに圧迫されていた。



?自宅マンションにて父親を殺害?



空回りする心のむず痒さに耐えきれず、僕は階段を上がって、自分の部屋に
入り、パソコンの電源を入れ、インターネットにすぐ繋いでみた。するとトッ
プページのニュースの欄には、君が父親を殺害し逮捕されたことが載っていた。
これ程の量の情報を突き付けられたのに僕にはまだ信じられなかった。日末一
巨大な掲示板へジャンプしてみると、「ニュース速報」や「音楽」のカテゴリ
ーの中でも、?君?に対する誹謗中傷の書き込みが嵐のように吹き荒れていて、
スレッドが幾つも乱立してはすぐに埋め尽くしてしまい、どんどん落ちていっ
た。

僕は一通りそれらの書き込みをチェックした後、呆然とした感情の中で、書
き込み主達に対する憎悪を吐き出しそうだった。まだこれは全てが現実である
わけでは無いという微かな希望を持っていて、君のバンドの公式サイトへアク