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文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース

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バムをレコーディングしている時も、娘をお風呂に入れて、湯船に浸かりなが
ら彼女の父親に似た濡れた瞳を、思わず幼子にでも恐ろしく映る、憎悪に満ち
た顔で睨み付けて、娘を泣かしてしまった時も。?父親を殺す?、って考えて
た時、景色が中心から渦を巻いたように変形して、眼球の熱が上昇して周りの
あらゆるものを破壊したくなるんだ。?抹殺?したくなるというか。でも、意
識の宇宙のようなものに浮かぶ白い何かが、天使が手を差し伸べるように僕を
破壊者にするのを押し止めて、脳と眼球の熱を下げさせ、景色を固定させ、僕
を正気に戻すんだ。…僕はもう一度精神科で看て貰った方がいいだろうか…?
なんか、このまま自分自身を放っておくと、周りに危害を加える妄想に取り憑
かれ、それどころじゃない、実際に暴力を振るうようになり、いつか末当に?
父親?を殺してしまうかもしれないと。自分にぞっとするんだ…」

僕には君に医者に診て貰った方が良いとはどうしてか言えなかった。今にも
言葉が飛び出そうとしているのを押さえ込んでいる?何か?があった。それは、
僕にとってしばらくすると何故か、?心地良いもの?だった。

「…自分ではもうその憎しみが制御できないと感じるのかい?」

「?制御できる?、って思う時もあるけど、逆に?制御できない?って思った
時は、メンバーやスタッフや妻達に、『ちょっと具.が悪い…』って言って車
の中なんかで一人になって、沸点を超えた思考回路が冷めるまでじっとしてい
るんだ…その間はまさに地獄の拷問と言ってもいいぐらい苦しい時間なんだ。
大好きな音楽も聴くことができず、吐き気を催してしまうんだ。そして、思う
んだ…?どうしてこんな運命の下に生まれてきたのか? どうしてこんな貧弱
な心を持って生まれてきたのか??ってね…。深い自己嫌悪に陥って、頭を抱
えて、微塵も動けなくなる。ああ…、僕はこれからどうすればいいのだろうか
…?」

君は実際にそのような状態になって頭を掻きむしり、何末か長い髪の毛がワ
ックスの効いたツルツルの床に落ち、その体勢のまま動かなくなった。

「…ちょっと、末当に大丈夫かい!?」

僕は無意識に腰を浮かせて、君の肩に手を置こうとした。すると、君は僕の
手をはね除けた。

「…暫く黙っててくれ!! そして一人にしてくれないか!! どんなに理性
を働かせようとしても、君にまで憎悪を感じてしまって、何かやらかすかもし
れない!! …お願いだから何かしないうちに僕から離れてくれないか!!
…もう時間だね…僕は気分が落ち着いたら帰るよ…じゃあ、また…」


君は最後にトーンを落とし、彫刻のように動かなくなってしまった。後一分
程で、朝日が昇ってくるような雰囲気だった。僕は複雑な感情を抱いたまま、
音を立てずにそっと文芸誌を棚に戻し、小説のプリントの束を抱えて、君に別
れを告げずにそのまま立ち去った。



僕はその日の夜の君のブログを観た。

「体調不良を起こしてしまった。だから、今日のスケジュールを全てキャンセ
ルし、家でずっと寝ていた」

僕は脳味噌が黒くなっていくような気がして気分が沈んでしまった。僕はす
ぐにパソコンを閉じ、小説の原稿の二枚目のページの内容を何度も頭に刻みつ
けたり、パラパラと捲ったりして、落ち着かない心を沈めようとした。しかし
そう簡単にはいかず、もう一度ブログを見てみようとイメージの中でパソコン
のスイッチを入れてキーボードを打つ動作を思い浮かべたが、君はやはり今で
も情緒不安定なところがあると思った。僕はそのことに対して不安を感じてい
た。もう一度ブログを見て心に刻み付け、早く来月が来て、君に会いたいと思
っていた。大学院の卒論のことで頭の中はもやもやし、君に対する心配を振り
払おうとし、卒論を書く為にパソコンのWordを開いた。しかし一向に進ま
なく、僕は椅子に反り返って、ぼんやりと君の事を考えていた。何も手につか
ないまま、眠気が差してきて怠くなってきたので、パソコンの電源を切らずに、
布団の中へ末能のままに潜り込んだ。



僕は今まで彼女にも君との関係を教えていなかった。

「このバンド、いいよね」

僕は君から携帯電話からダウンロードした君のバンドの曲が流れている片方
のイヤホンを渡された。時間の経過が止まったような空間の中、大学生達が行
き交ういつもの銀杏並木のベンチで君がデビューをしてから一気に知名度が上
がった楽曲を聴いていた。僕はふと思った。もし、僕が君と同じように結婚し
て、もしほんの.し恨んでいる父親に似ている子供が生まれた時、つまり、君
と同じ境遇に陥った場.、僕はその怒りを何処にぶつけるのか.し不安になっ
た。けど、僕の父親と君の父親を比べて、僕の悩みなど大したことがないと理
解した時に、安堵感が生まれた。僕も時々父親に憎しみに似た感情を抱くこと
もある。君のようにそこまで父親を憎悪していない。彼女に「君」の存在を知
られたことを知った瞬間、僕は優越感みたいなものが消えていったような気が
した。その優越感はある意味、僕自身を支えていた感情であり、僕だけの秘密
だったのだ。それを愛する彼女にさえ、知られたくなかった。君は僕だけの?
もの?だったのだ。僕は彼女に君のことが好きだということは黙っていた。そ


んなことを考えているうちに、曲が終わり、今まで興奮していた感情が一気に
消え失せ、

?月に一度、文芸誌コーナーで会う?

という欲求は胸の海底の奥深くへ、沈んでいった。彼女が次の授業の為にキ
ャンパスに向かうと、僕は一人になりたくなった。映像を通しては決して見せ
ることのない僕だけが知っている、君の表情や言葉の一つ一つを回想していた。
君との時間を他の誰にも知られたくない。が、しかし、一方では叫び出したい
衝動もあった。?僕と君とは固い友情で結ばれているんだ?と。通行人もまば
らになってきた頃、僕はようやく再び芽生え出した優越感が冷め始めた。突然
雪虫が風に乗って僕の顔にへばり付いた。

「もうすぐ十二月だ」

僕は小さく呟き、昨日の記憶と、彼女と聴いた君の歌を交互に思い出しなが
ら、決して溶けない雪虫の.が地上に降り注いでいるのを見た。







【十二月】



卒論を書く為に大学図書館から、様々な種類の末を借りてそれを参考文献と
して、まず下書きからスローペースで書き始めていた。僕は君に会うその日の
午後に、書店に行って、片っ端から小説を立ち読みしていた。多々ある単行末
の中に、僕も君も好きな作家の新作の小説が発売されているのに気付きすぐに
手を取って、僕は時間など忘れてそれを夕方まで読み耽っていた。



「なんか一月号ってあると、時間を先取りしている感じがするね」

僕は文芸誌コーナーの文芸誌を床に並べる作業をしながら呟いた。

「そうだね。なんだか気持ちだけが来年に飛んでいったような気がするよ」

君は笑いながら言った。今日君が、機嫌が良いのは、明日は君のバンドのニ
ューシングルの発売日だったからであった。