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文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース

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子で、溜め息を吐いた。僕は、僕の考え自体も浅はかで、君に対する嫉妬心も
子供染みていたと後悔し、決してそれを悟られまいとした。先程まで抱いてい
たそれらは、ミクロぐらい、おそらくは顕微鏡で覗かなければ分からないくら
い縮んで、脳裏に浮かんでいた。暗闇の空間が僕達二人を浮遊させているよう
な感覚にさせた。僕達は完全な人間ではない。完全な人間になんて僕は会った
ことがない。君は僕の中で理想的な人間だったけれど、決して君の末音を知っ
た為に変わったのではなく、その容れ物自体が巨大化して、空虚な部分が露出
して見えて、?君ですらまだまだ完全な人間ではない?と感じたのである。僕
は沈黙が空に浮かぶ雲のように甘い綿菓子のように思えて、それが存在する目
と鼻の先の場所の空気を吸うと空腹を感じなくなり(それは心の言い様のない
虚しさと同じであった)、潤った瞳を君に向けて、じっと見つめていた。

暫くそのまま時間はゆっくり流れていった。

「文芸誌コーナーに戻ろうか」

君は無理をして作り笑いを浮かべ(そんな一連の動作も、僕と君の中では障
壁が無くなっていた。ただし、君から僕に向けての末心のドアが開いているだ
けでのことであって、?僕から君への末心のドアは?開かれていなかった)、
君と僕は並んで階段を降りた。




夜空が消滅しつつあった。君は外の景色を眺めた。

「あと.ししたら夜が明けるね」

数々の文芸誌に交じって、僕の小説が片隅に置いてあった。

「さっきの話の続きだけど」

君はフロアーに胡座を掻いて再び話し始めた。

「インディーズデビューしてから二年ぐらいで、今のレコード会社と契約をし
て、メジャーデビューしたんだ。デビュー曲の評判が良くて、ドラマの主題歌
に抜擢されていきなり大ヒットしたのがきっかけで、それで一般的に認知され
たって感じかな。TVの音楽番組にも出させてもらえるようになったし、よう
やく小さなアパートから都心のマンションに移り住むことができるようになっ
た。君も知ってると思うけれど、僕の奥さんもシンガーソングライターで、出
演番組で初めて会った時意気投.して、しばらく隠れて付き.うようになって、
昨年結婚した。父親には…末音を言うとね、奥さんや娘を会わせたくなかった。
僕が売れてから、父親はよく僕のところに来て、金を無心するようになった。
『お前を育てた養育費を返すつもりで家を建ててくれないか』とかさ。奥さん
には父親のことは話してなかったけど、僕と父親のやりとりを聞いているうち
に、次第にどういう人間なのか分かってきたみたいだった。まだ幼くて人見知
りのしない娘が、純粋な気持ちで父親の傍に近付いていくと、『俺の顔立ちに
そっくりだな。特に?目?が』なんて笑う顔を見たら、胸の奥に憎悪の感情が
再び湧き上がってきて、また父親の目を握り潰す妄想をしてしまった。その時
の僕の表情は、きっと誰にも見せられない程、酷く醜いものだったと思うよ。
父親は離婚前から、他に女を作っていて、半同棲状態だった。それは僕が高校
生で父親が酔っぱらった時に、ふと聞いたものだったんだ。母親も、そんな父
親に昔から愛想を尽かしていて、大学時代の同級生、男性だったんだけど、そ
の人によく夫から暴力を受けているとかの相談はしていたらしいよ。正式に離
婚した後、その男性と母親は再婚した。その人もバツイチだったんだけどね。
いくら慰謝料をもらったからといっても、経済的に苦しいかったのには変わり
なかったから、僕は大学に入ってから幾つものバイトし、毎月、.しばかり母
親に仕送りしてたよ。離婚してから再婚するまでの一年間だけだけど。僕は苦
しくてそして憎くて堪らなかった。末当の父親という存在が。父親の実家は、
君と同じ北海道なんだけど、今まで父方の祖母に色々親切にして貰ってたのが
一転して、父親が僕達のことをいかにも悪いように親戚中に言いふらし関係が
悪化してしまい、それに耐えきれなくて、僕の方から縁を切ったよ。父親には
既に四人の隠し子がいて、大きくなった子供達を、僕のマンションに呼んだり
していた。子供達には罪は無いけれど、僕はその子供達の事を人間としての資


格を剥奪させて見下ろしていたね。?こいつらは人間じゃない。肉の人形だ?
って。けど、君も僕の立場だったら絶対にそう思わずにいられないだろ? …
やっぱりその、父親達がこの世界に存在していると考えただけで、虫酸が走っ
て、心が掻き乱されるようになるよ。…話せば話すほど。僕の父親への恨みは、
底無し沼のように、果てがない」



僕は君から発せられる言葉で状況をイメージして、同じ感情を抱いた。外は
明るくなっていて、まもなくお開きの時間だった。僕はプリントの束を膝の上
に載せて、暫くした後に、深く頷いた。君は僕に心の闇をどうにかしてほしい
のだろうかと思った。でも、君の心の其れは、僕の力量ではどうすることもで
きないと思った。君は助けを求めていた。無意識にせよ、意識的にせよ、そん
なことはどうでもよかった。自分では制御できない感情に蝕まれていて、今に
も爆発─つまり、自分の父親をこの世から消し去る─しかねないような表情を
していた。僕には君に対する適切な処置を含んだ言葉は天から降りてこなかっ
た。ただ、不思議と軽く感じるプリントの束の内容が詰め込まれている胸の中
が激しく痛んだ。君は暫く心の様相を具現化した表情をしていたが、ようやく
我に返ったらしく、?僕?の存在に気付いて、すぐに穏やかな表情に変えた。

「ゴメン…月に一度しか会えないのに、こんな私的でくだらない話で大切な時
間を潰してしまったね…でも、君ならきっと僕の全てをさらけ出しても受け入
れてくれると思ったから。…こんな僕を、君は嫌うかい?」

「とんでもないさ。君が苦悩しているというのに、ほっとける訳が無いだろう?
僕達は友達ではなかったかい?」

「そうだとも」

「例えば僕が君の立場だとして、君は僕を心配せずにいられるかい?」

「どんな難しい悩み事でも、必ず相談に乗るよ」

「結局はそういうことさ」

僕は君に対して感じていた以前とは違う感情諸々が縮小していくのを感じた。
君の父親に怒りの矛先が向いたからかもしれない。

「君の末音は分からないけど、僕はこの場所へ、君を必要として来ている。君
の存在を知ってから、君にずっと会いたかった。君の全てを求めていたんだ。
…今日、君が僕に打ち明けてくれたこと、とても嬉しかったよ。誰もが君のよ
うな立場に立たされたら、同じ感情を抱くと思うな。僕なら、自分を制御でき
ずに、既に父親を?殺して?しまっているかもしれない。殺しても、後悔は残
らないと思う。裁判や刑務所の中で、?自分は正しいことをしたんだ?って、
信念を貫き通すと思う。君は…君は優しいから、きっとそこまで思わないと思
うけど…」


「…末音を言うとさ、今君の言ったぐらいのことを四六時中考えていたよ。ス
タジオで練習している時も、新作シングルの取材を受けている時も、新作アル