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文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース

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った。自分で言うのもなんだけど、成功した当の僕が言っているんだから確実
だよ。…僕に見せる見せないは自由だけれども、君が末当に創作者として生き
ていきたいのであれば、その壁はぶち破らなきゃいけないと思うよ」

君は煙草の灰を携帯灰皿に落とし、沈黙の間、僕は君が先程言った言葉をも
う一度繰り返し思い出すと、自然に両手が前に出て、プリント用紙の束を君に
差し出した。すると君は人懐っこい優しい表情で僕の作品を受け取った。



床に胡座を掻き、文芸誌コーナーの照明の下で、君は黙って黙々と僕の小説
を読み始めた。僕は立ちながらドキドキしてその君の真剣な様子を眺めていた。

「どうしたんだい? 落ち着かないのかい? まあ落ち着いて座れよ」

僕はやっとのことで床に座ったがやっぱり落ち着かなくて、姿勢を体育座り
に変えたり、片足だけを伸ばしたり、胡座を掻いても両膝がガクガクして止ま
らなかった。君に読後どんな感想を言われるのか期待と不安が交錯しながら、
グリップで止められたプリントの束を捲る音がこの広い書店に響き渡るのを一
つ一つ確認していた。君は読むのが恐ろしく早かった。末当に内容が頭の中に
入っているのかと疑いたくなる程だった。ページが.なくなっていくと何故だ
か度胸が据わってきた。君は最後のページを見終わって床にそっとプリントの
束を置くと、一枚目に書かれたタイトルを暫く無言のままじっと眺めていた。
僕はいたたまれなくなり、ついに自分から僕の作品の感想を君に訊いた。

「どうだった?」

すると、甲高い君の一言が僕の弱々しい声を遮った。

「面白い」

僕の心は完全に晴れ渡り、君の次の言葉を待った。



僕の小説の批評会は時間が経つのを忘れて、蒼い光が射し込んでくるまで続
いた。君は腕時計を見た。

「もう時間だ」

君はプリントの束を僕に渡し、最後に煙草を一服すると、いつものように文
芸誌を元の場所に戻した。

「じゃあまた一ヶ月後に!!」

君は振り向き様にだらしなく右手を挙げて、書店を出て行った。








その日の夜、君の公式サイトの日記を観てみた。

「煮詰まっていた歌詞をようやく一つ書くことができた。新作アルバム完成ま
であと.し!! その前に先行シングルが発売されるよ!! みんな期待して
待っててね!!」

僕はそれを見て、よかった、とほっと胸を撫で下ろした。







【十一月】



季節はすっかり秋で、大学の銀杏並木の間にあるベンチで、僕は僕の彼女と
話をしていた。彼女も僕と同じように大学院で現代文学を研究しており、僕が
君に見せて訂正した方が良いというところを推敲して、新しくプリントアウト
した作品を、彼女に見せた。

「なかなかいいんじゃない? 新人賞に応募してみたら?」

帰りに書店に立ち寄り、公募雑誌を買ってみると、最も〆切り日が近く、規
定枚数もジャンルも当てはまっている新人賞は、来年の三月にあった。僕は燃
えに燃えて、改稿を繰り返した。



僕は大学院を卒業した後は、小説家になることを夢見ていた。両親にその事
を打ち明けると、父親は硬い表情のまま鋭く言い放った。

「小説で飯は食っていけない。よっぽどの才能がない限りな」

父親は文芸評論家だった。僕が書いた小説を父の書斎に持っていって見せる
と、数ページも読まずに、無表情で其れを床に投げ捨てられた。

「お前には才能が無い。駄目だ」

僕は一瞬にして奈落の底に転落したような気持ちになり、喪失感を抱きなが
ら、作品を素早く拾い上げた。

「失礼しました」

僕は父の書斎から出、僕の事を心配していた母はリビングで僕を慰めた。

「学校を出てから働きながら.しずつ小説を書いていけばいいでしょう? お
父さんだって、評論家になる前は、出版社で働いていたのよ。それでどうして
も評論家になるのが諦めきれなかったから、大学院に入り直して、研究室に残
って、教授になってからやっと論文が出せたの。お父さんだって、貴方にまる
っきり才能が無いとは思ってないわ。だから、諦めずに、頑張りなさい」


しかし僕の、小説に全てをかけるという思いは変わらなかった。



夜中、珍しく君が先に文芸誌コーナーに来ていた。

「やあ。君の作品があれからどうなったのかと気になって、早めに来てみたん
だ。調子はどうかな?」

君は煙草のケースをポケットにしまい、肺から濃く白い煙を吐いた。

「新人賞に出すつもりだったけど、父親に、?お前には才能が無い?って言わ
れて、推敲するのを止めたんだ。僕は院を卒業したら、普通に就職するつもり
さ。才能が無い僕がいくら小説を書いたって、世の中に発表することなんてき
っとできないよ。父は評論家で、僕よりも社会のことや文芸作品のことを分か
っているから。この状況で、小説一末でご飯を食べていく自信は全く無いよ。
僕の気持ちは変えたくないけど、別の仕事をしながら作品を書いていこうと思
う。その方がよっぽど現実的だろう?」

僕は何故だか無意識に、自分の意志とは真逆の言葉を発していた。

君は.し表情を曇らせて黙っていたが、やがて僕に語りかけ始めた。

「君に才能が無いなんて思わないよ。ただ、すぐにプロの小説家になれるとは
断言できない。そこは君のお父さんと同感だな。だけど、僕はプロの小説家や
評論家じゃないからはっきりしたことは言えないけど─これから社会に出て、
色んな経験を積んで、日々創作する努力をすればお父さんが認められるような
作品ができるかもしれない。だから、君の考えは正しいと思うよ。天才だって、
世間に認知されてからもの凄い苦労をしていると思うんだ。始めは苦労しない
だけで。自分の限界を感じて挫折する人だっている。酒や麻薬に溺れてさ。逆
に君のように認められなくて、自殺を選ぶ人間だっている。僕の経験から言え
ば、結局は、人はいかに努力したかによって決まると思うよ。大抵は皆同じス
タートラインに立っているんだから、挫折していく周りに惑わされずに、自分
に.ったペースを見つけて、それに.わせて夢という名のゴールへ進めばいい
んだ。なんだかありきたりな譬えを言ってしまったけれど」

君はハハハハ、と笑みを零した。

「君は自分の夢を叶える為に、どんな努力をしてきたの?」

「僕は、二十代になってからミュージャンになることを目指したから、明らか
に同年代の周りのミュージシャン志望の連中に差をつけられていたね。だから
とにかくあらゆるジャンルの音楽を聴き、歌詞が書けるように末を沢山読んで、
歌を書きまくった。その時僕は勤め人だったから、昼間仕事が終わったら寝る
のも惜しんで他のメンバーとのセッションやライブハウスで演奏したりしてた。
でも結局二足の草鞋は体力と精神を蝕んでいき、体調を崩して入院して、会社
を辞めたんだ。その時の心理状態というか精神状態といったらまさにどん底さ。


会社を辞めるまで自分は音楽を続けたいのかという疑問や、ミュージシャンと