冷たい夜
「こんなのさあ、全然気にすることないよ。今この瞬間だって、どこかで誰かが死んでんだよ? どっかで誰かが助けを求めてんだよ? イチイチそんなの気にしてらんない」
この酔っぱらい女の話をどこまで真面目に聞いていいかは分からない。だが、あの声の正体が俺の罪悪感だという指摘は当たっているように思えた。
「ああ、オニーサン元気になったみたいだねぇ」
女に言われて、俺は自分が笑みを浮かべているのに気づく。
たぶん この女と同じような表情だったのだろう。
別に珍しくもない。日頃から見慣れている。
そう、例えるならば、
まるで悪魔のような。