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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トゥプラス

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 人々の想いを聞き届け、飢饉に悩む人々を救ったこともあった。しかし、今の日本では食料に困ることなどない。多くの人が餓えて死ぬことなどない。
 全ては昔と変わってしまったのだと椛は哀しんだ。必要とされなくなった自分は消えてしまう存在なのだと時代の流れに運命を任せた。
 椛は自分でどこをどう歩いたか覚えていなかったが、気がつくと小春神社の前に立っていた。
「御神木は焼けてしまったけれど、私の場所はここにあるのね……」
 ゆっくりと小春神社に入っていった椛。そして、彼女は焼けた木の下までいった。
 そっと焼けてしまった木の表面に手を触れ、椛は目を閉じた。
 大きな命の息吹が椛の小さな手を伝わり感じられた。表面は焼けてしまっているが、木はまだ生きていたのだ。
「あなたは強いわ。でもこのままでは切り倒されてしまうでしょう。だから、私の力を分けてあげます」
 椛は両手で木を抱きかかえるようにして手を回した。大きな木には手が回りきらないが、それは関係ない。椛が楓の木をやさしく包み込むことが大切なのだ。
 椛は自分の力を焼けてしまった大木に流し込んだ。こうすることによって、元通りの立派な楓の木に還してあげようとしているのだ。
 焼けた大木は椛の力を流し込まれ、見る見るうちに表皮が蘇り、枝は伸び、ついには葉を付け季節外れの紅葉に華咲いた。
 綺麗な紅葉の下で椛は涙した。
「何年ぶりの紅葉かしら……」
 長い年月の間、紅葉することのなかった御神木が今再び紅葉し綺麗に色づいたのだ。
 しかし、突然、紅葉した葉が急速に枯れ落ちて、枝も木も枯れて全てが朽ち果てようとした。
「どうして? どうしてそんなことをするの!」
 ――違った。楓の木はただ朽ち果てようとしているのではなかった。だから椛は叫んだのだ。
 楓の木の力が全て椛の身体の中に強引に流し込まれていく。命の息吹が椛の身体の中に止まることなく流し込まれていく。
「どうしてそんなことをするの? このままではあなたは枯れてしまうわ!」
 椛の呼びかけを無視して、楓の木は持てるエネルギーを全て椛の中に流し込もうとしている。
 椛は拒否しようとしたが、それでも止まらなかった。
 楓は枯れ果てて、背をどんどんと縮ませ、最期には枝一本の太さまでになって、消えてしまった。