トゥプラス
店内は夕飯の食材を買い求める主婦たちでいっぱいだった。
悠樹は椛が迷子にならないように手をしっかりと握り、店内を歩き始めた
いろいろな食材やお惣菜コーナーも見て回るが今日のメニューが決まらない。
悠樹は学校のある日はいつも武の意見を参考にして夕食を決めているのだが、学校が無い日はなかなか夕飯のメニューが決まらない。
「椛は何か食べたいものある?」
「う〜ん」
椛も首を傾げて困ってしまった。このままでは夕飯のメニューが決まらない。
その時だった。ちょうどいいところへ夕飯のおつかいに来ていた武が姿を現したのだ。
「やあ悠樹」
「夕食何が食べたい?」
行き成りだった。会ってすぐに悠樹はそう聞いた。だが、武は平然と言葉を返す。
「今日はてんぷらうどんなんだよね〜、ウチの夕飯」
「じゃあ、てんぷらうどんにするか」
武を椛に目をやった。
「その子だれ?」
「俺のいとこの椛だ」
「椛ちゃんっていうのか、カワイイ名前だね。ボクの名前は藍澄武、ヨロシクね」
差し出された手を掴み握手した椛はニッコリと微笑んでぺこりと頭を下げた。
「はじめまして」
「さて、てんぷらを買ってさっさと帰るか」
悠樹は椛の手を取って半ば強引に歩き始めた。
「待ってよ悠樹、会ったばっかじゃないか。椛ちゃんとももっと話したいし、ねえ!」
「夕食が遅れると輝がうるさいのでな」
全くの嘘だった。輝は一度寝ると朝まで起きない。悠樹はただ武に椛のことがばれるのを何としても避けたいのだ。
椛の手を引きお惣菜売り場へ急ぐ。ここでてんぷらを買って急いで帰る。
てんぷらの詰め合わせを手に取り急いでレジに向かおうとしたのだが、武がすぐに追いかけて来た。
「なんで逃げるのさ」
「別に逃げてはいない。急いでるだけだ」
「ウソだよ絶対。悠樹はボクから逃げてる」
こう言って武は椛のことを見た。
「これはボクの勘だけど椛ちゃんのことで隠し事でしょ」
――鋭い。武は勘が異様に鋭いのだ。
「今度ゆっくり話すから、今日は急いでいるんだ」
再び悠樹は椛の手を取り早足でレジに向かっていった。
「今度絶対話してよぉ」
武の声は悠樹に届いたかどうかわからない。
てんぷらの詰め合わせだけを買うと悠樹は椛を連れて外に出た。
「どうも武に隠し事をするのは得意ではないな」
作品名:トゥプラス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)