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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トゥプラス

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「お兄ちゃんって言われると恥ずかしいから悠樹って呼んでくれるかな? それと輝も輝でいいと思うよ」
「悠樹、あのね、人間じゃない椛にやさしくしてくれてありがと」
「……うん」
 椛は悠樹に擦り寄ると目をつぶり眠りについた。
 悠樹は椛が人間じゃないなんて信じているわけではないが、信じていないわけでもない。ただ、どちらにしても証拠がなく、椛という存在は確かに今ここにいる。悠樹にとって椛がなんであろうと別にどうでもいいことだった。
 悠樹はすぐ傍で眠る少女のことを少し考えてから眠りに落ちた。

 深夜遅くまたしても小春市内の住宅から火が昇った。何の前触れもなく業火が家を包み込んだのだ。
 深夜ということと突然火が上がったということもあり近隣住民はまだ火事に気づいていなかった。
 そんな中、燃え上がる火をひとり見つめる者がいた。――星川未空。
 未空はいったいここで何をしていたのか?
 燃えあがる炎を無表情な顔で見つめる未空。その表情からは何を考えているのか全くわからない。
 やがて、家の中から住人が死相を浮かべながら逃げ出してきた。
 家の中から逃げ出して来たひとりの若者が叫び声をあげた。
「誰か助けてくれ!!」
 家は轟々と燃え上がり近隣の住人も家を飛び出して来た。
 大勢の人々が集まり、未空はその人ごみに紛れてこの場を後にしようとした。
 家事に遭った住人のひとりの若者が、こう集まった人に言っているのが聴こえてきた。
「狐が、狐を見たんだよ」
 その声は心底怯えきっているように聴こえた。
 だがもう未空は振り向きもせず足早にこの場から離れていった。
 火事の現場を離れて未空はある場所に向かっているのだ。その場所とは小春神社。火事の現場からそんなには離れていない。
 歩きなのでだいぶ時間がかかってしまったが、未空は小春神社の境内に足を踏み入れた。
 大きな神社ではない。入った瞬間に全体が見渡せる。
 昔はこの神社はもっと広かった。だが徐々に狭くなり、今では人が訪れることなど滅多になかった。
 神社の神が宿っていたとされる御神木である大きな楓。昔は秋になると紅葉して、美しい葉は見ものであったが、今は老樹となり紅葉するもなくなり、いつしか人々はこの楓のことを忘れてしまっていた。
 その御神木であった楓の面影は今はもうない。火事で焼けてしまったのだ。