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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トゥプラス

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 尊は細く伸びた白い指でチョークの先を軽く握り、黒板と向き合ったまま数分の時を過ごしてしまっていた。そのチョークの先にあるのは、最後に残ってしまった誰も立候補者のいない図書委員の男子枠だった。
 悠樹は口に手をやり、ワザとらしく咳払いを一つして男子生徒たちを見回す。
「コホン、どなたか立候補をお願いします」
 このクラスは女子が二〇名、男子一六名で構成されている。まだまだ委員になってない男子生徒は多くいるはずなのだが、誰も図書委員になろうとする者はいなかった。
 図書委員をやりたくない理由は単に委員活動がめんどくさいという他に、すでに決まっているパートーナーの女子生徒に問題がある。その女子生徒の名は星川未空(ほしかわみそら)。
 星川未空は無口で、読書好きで、どこか近寄りがたいオーラを発している女の子――まあ、ここまでなら結構どこにでもいそうなタイプの子なのだが、未空には変な噂がつきまとっていた。宇宙人と会話ができるとか、気に入らない人に念(毒電波?)を送って不幸にさせたりなどなど、トンデモ系の噂がまことしやかに学校全体に広がっていた。
 前方の席に座っている楕円形の眼鏡をかけた女の子が大きく手を上げた。それに対してすぐに葵城が反応する。
「何でしょうか香月さん?」
「わたしでよかったら図書委員やりますけど?」
「できれば男子生徒にやってもらいたいのですが、そうですよね立花先生?」
 そう言って悠樹が振り向いた先には、教室の――それも最前列の生徒の前にちょうど空いている窓側の日当たり良好の場所に白いテーブルと椅子を並べて、勝手に自分スペースを作り、長く伸びた足を組んで不必要なまでの色気を振りまく、リラックス状態の立花莉奈先生が紅茶を飲んでいた。しかも、ファッション雑誌まで読んでいる。
「葵城クン何か言った? 聞いてなかったんだけど?」
「いや、失礼しました。立花先生はティータイムを続けていてください」
 悠樹は立花先生に判断を仰ごうとした自分がバカだったとひどく後悔して、髪の毛を軽くかき上げ、ため息をひとつ付いた。
 髪の毛をかき上げた悠樹に対して静かな歓声が湧く。恒例の行事だった。
 職務放棄とも取れる行為をしている立花先生はほっておいて、早く残りひとつとなった図書委員の男子枠を決めたいところだが、――時間だけが無常に過ぎていく。