トゥプラス
「輝はまた隠れてて、傷は後で治してあげるから」
「わかった」
輝が再び壁の後ろに隠れると、椛は弓矢を構えながら琥珀に向かっていった。
椛と琥珀の戦いは、今の現状では椛が不利に思える。だが、輝には大したことができない。
その時だった。輝のもとへ誰かが駆け寄ってきた。
「あー、もう、ホント恐かった!」
それは涙目で息を切らせている綾乃だった。
「死にそうなくらい恐かったんだから!」
「他のやつらはどうしたんだよ」
「知らないわよ!」
綾乃は感情が高ぶり少しキレ気味だった。
輝は綾乃が弓矢を持っていることに注目した。
「何だよ、その弓矢?」
「超強力な武器なんだけど、霊能力みたいなのがないと撃てないのよ」
「ちょっと、貸してみろ」
輝は綾乃から強引に弓矢を奪うと琥珀に向けて矢を撃とうとした。しかし、矢を引くことはできなかった。
「何でだよ?」
「だから、普通の人じゃ無理なんだって!」
輝が懸命に矢を飛ばそうとしている中、椛は琥珀の戦いは激しさを増していた。
炎を飛ばす琥珀に椛は一歩も近づくことができなかった。矢を放ったとしても軽がると避けられる状況だ。そして何より、今の椛は二人に分かれている分、その力も半分になっていた。
椛にとって状況は最悪だ。けれども椛はあきらめはしなかった。さっき、輝が傷ついてしまったのは自分のせいに他ならないのだから、もう、あきらめるわけにはいかない。
今の椛の最大の武器は小さな身体を生かした小回りの利いた素早い動きだ。その動きを生かして椛は琥珀の背後に周り矢を放とうとした。しかし、同じ手は二度も通用しなかった。
椛が矢を放とうとした瞬間、それを読んでいたように琥珀が素早く炎を吐いた。それを避けるに精一杯で椛は矢を放つことができなかった。だが、矢は以外な方向から飛んで来た。
輝はついに矢を放つことに成功し、矢は琥珀の身体を掠めるように飛んでいった。矢は弓矢の腕前とは関係無しに使用者の思い通りに矢を飛ばすことができると未空は言っていたが、輝には矢を飛ばすだけで精一杯で、矢のコントロールまではできなかった。
矢は琥珀の身体を掠めただけだったが、それだけでも琥珀の身体の三分の一が消し飛んだ。
「すんげぇ、マジすっげえ!」
輝は感嘆の声を上げてはしゃいだが、琥珀の身体は自らの炎にとってすぐに復元され傷一つなくなった。
作品名:トゥプラス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)