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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トゥプラス

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 楓の放った矢は大きく反れて廊下の奥に飛んでいってしまった。しかし、尊の心臓の部分からは鋭い刃物が突き出ており血が流れていた。
「ごほっ……未空か……」
 尊の背中には未空が覆い被さるように立っていた。尊が矢を放った瞬間に、未空は尊の背中にナイフを突き刺したのだ。尊の矢が狙いを外れたのもこのせいだ。
 背中からナイフを抜かれた尊はゆっくりと膝をつき、そのまま仰向けに倒れた。
「……人間との生存競争に私は負けてしまったな。やはり人間によって創り出された者は、人間には勝てないということか……」
 未空は尊の手を取って、やさしく握り締めた。
「あたしは尊が人間じゃなくても、それでよかったのに……」
「未空は私が人間ではないことを知っているんじゃないかって思ってた。でも確信はなかったんだ。でも、椛が人間ではないことを言い当てた時わかった。未空は最初から私が人間でないことを知っていたんだと……。不思議な人間だな未空は……」
 楓が尊に駆け寄り、傷の治療をはじめた。
「同属のお姉ちゃんを死なせるわけにはいかないから」
 尊は苦笑を浮かべた。
「敵に情けをかけられるなんてな……。私なら大丈夫だ、人間と違い、心臓を射ぬかられたくらいでは死なない。数日の間、ここでこうして倒れていなければならないだろうがな……」
 尊は廊下の先を指差した。
「私のことなど放っておいて、仲間を助けにいけ。琥珀は人間に容赦しないだろうからな」
 楓はそう言われても治療を続けようとした。悠樹もまたここに残ろうとしたが、そんな二人の手を強引に未空が引っ張った。
「輝クンたちが死んでもいいの? 早くいきましょう!」
「でも、尊さんをここに残してはいけない」
「尊お姉ちゃん、このままだと死んじゃうかもしれないよぉ」
 未空は普段は絶対出さない大声で怒鳴った。
「輝クンたちが死ぬわよ!」
「未空の言うとおりだ。私など置いて早くいくんだな」
 未空に強引に引っ張られて、悠樹と楓は無言で背中を引っ張られる思いでこの場から立ち去っていった。
 未空は決して振り返らず誰に見せない前顔は、大粒の涙が光っていた。
 残された尊は深く息をついた。
 心臓を刺されても人間と違い、そう簡単には死なない。だが、未空のナイフは普通のナイフではなかった。