象徴としての脚、および脚部の装飾の効果における考察
まいどおなじみ、想像してみてください。
大人になっても趣味はスポーツ。フットサルは見るよりやるほうが好きで
オッサンとかに混じって酒飲んでゲラゲラ笑い、
スヌーピーとかリラックマなんて絶対眼中にないであろう彼女。
軽く日焼けした肌に塗られた申し訳程度のファンデーション、
申し訳程度に耳たぶにぶらさがる小さなピアスと、
一応男のものではない名前がかろうじて女であることを説明しています。
おそらくいまだにスポーツブラでしょう。
そろそろ冬物買いに行かないとな、いきなり寒くなったしいっちょ代官山でも行くかなんて話を
していると、横からそんな雪江のちょっと鼻にかかった声が割り込んできた。
「へー、あんたもそんなとこで服なんか買うんだ、ユニクロかと思ってたよ。」
ちょっとカチンと来る。確かにこいつはスーツの俺しか見たことないが、
それだって俺なりにこだわってるつもりだ。
ネクタイだって、いや、タイだからこそきちんとしたものをきちんとしたところで買ってるし
今しているのだってジョルジオだ、エンポリオじゃない。
お前こそボーイッシュな見た目には似合わない事務服姿しか俺は見たことがないぞ。
「一人で行くの?降りられなくて横浜まで行っちゃうんじゃない?」
上等だ。お前こそまともな私服を着ているんだろうな。
なら土曜日に買い物いくからお前来てみろよ。
ジャージで来たら代官山の前にマルイで服買わせるからな。
「その前に代官山に行ける服着てるか判定してあげるよwだめだったら井の頭線乗るからねw」
そんな挑発に乗ったのか乗せられたのか、俺達は11時にハチ公口で会う約束をしていた。
同僚は面白そうににやにやしていたな。
予想したより早くついてしまい、ツイッターに「渋谷なう」などと投稿して
暇つぶしをしていた俺の肩甲骨あたりをぽん、と叩く手にイヤホンを外して振り返る。
ふわりとふくらんだショートパンツを中ほどまで覆う短いベージュのワンピース。
濃い茶色のバッグに、薄いグレーのファーのベレーを頭に載せ、黒いウエスタンブーツを履いた
雪江のすらりと伸びた足は、美しい形を保ったまま濃い目の青のカラータイツが覆っていて、
片足だけ少し曲げた青い足のラインが普段の色気無しのスポーツウェアや事務服姿に相まって
妙になまめかしさを感じさせる。
「で、ど、どうすんのよ」とあいさつもそこそこ、緊張気味に問うてくる雪江の浅黒い肌の色には
少しガーリー過ぎる出で立ちだが、おそらくこいつなりに悩んで選んできた服装なのだろうと、
微妙にちぐはぐな合わせ方から想像はついた。
「うん、行こうよ、代官山」
笑いを堪えたのがかえって笑顔を強調されてしまった感のある表情を
少し後悔しながら言うと、がらにもなく「本当!?」と雪江は目を輝かせ、
取り繕うように「しかたねーな、切符あんたが買えよな!」と眉間に皺を寄せた。
その前にメシだな、あそこのメシ屋混むし渋谷で食ってこうぜ。
ラーメン屋でいい?いや、そんな格好の女、一蘭に連れてったら俺が恥かくだろ。
ランチプレートを待ちながら、小さなテーブルの下からのぞくやけに貧乏揺すりの多い
青い太股に妙に目が行く自分に微かな疑問を抱きながら、
「もしよさげなのなかったらマジで横浜のショップまで行っていい?」
と提案するタイミングを図っている俺がいる。
代官山を回って、横浜まで行ったら、帰りはきっと夜だ。
作品名:象徴としての脚、および脚部の装飾の効果における考察 作家名:劉 裕介