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蜃気楼に恋をした。

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彼が階段を降りる時の足音が好きだった。
踊り場ごとに区切られているかのような、ちょっと変わった彼独特のそれは、妙に耳障りが良かった。
だから、それを聞いて自然と歩く速度が緩んでしまう私を、どうか咎めないでほしい。
しかし、足音にすら好意を抱くとは、我ながら馬鹿げたものである。

流れで共に帰路につくことになり、私は少し緊張していた。
こうして彼と並んで歩くのは久しぶりだったからだ。
そうでなくても、彼相手ではうまく言葉が出てこないのに。
嗚呼、沈黙が気まずい。けれど、きっと気まずく思っているのは私だけで、彼は特に何を思うでもなく、帰路についているだけなのだろう。ああ、私馬鹿みたい。
ふわ、とメンソールが香って、私は気付かれないように溜息を吐いた。


<蜃気楼の本領発揮>
(ほんとはずっと遠くにいるくせに、近くにいるフリなんてしないでほしいのに)

作品名:蜃気楼に恋をした。 作家名:泡沫