とある学校の委員会は!
担任の近くに一人の男子生徒が立っている。
襟についたバッジで、二年生ということがわかった。
中くらいの背丈に、細身できつい感じの目をしている。
『あれ、俺なんかした?』
冷や汗をかきながら隣を見ると、首を振っている。
『そうだよな、知ってるわけないよな』
入学早々、あんなおっかない先輩に目をつけられたなんて。
自分にだって身に覚えがないのだから。
主計はゆっくりと起立して、短く返事をした。
必死な主計の心情も知らずに、担任は一言。
「予算委員長の加計本直々の指名だ、頼むぞ!」
そう、告げた。
「……はい?」
整理できない頭のまま、もう一度隣を見る。
だから首を振ったのに……、と言いたげな視線が向かっている。
意志疎通がうまくいかなかったらしい。
それはそうである、なんたって出会って数日の仲だ。
無言で通じあえるわけがなかったのだ。
「え、え?」
「じゃぁ、予算委員は主計 一で決定……と!」
嬉しそうに教師が、名簿に書きつづる。
周りからささやき声が聞こえてくる。
「よかった、俺じゃなくて」
「あいつ運ねぇなー」
「何だっけ名前?」
「……主計 一だってよ」
「あぁ、だからじぇねぇの」
「何、どういうこと」
「数え始め、だからだろ」
途端沸き起こる爆笑。
あまりに呆然としていて、納得も怒ることもできない。
「よし、じゃぁまた明日な」
帰りの号令を、そのまま受けて立ちすくむ。
人がほとんどいない教室の前方から、加計本が歩いてくるのを主計はぼんやりと見ていた。
「悪いな。今日くらい、さっさと委員会終わらせてやろうと思ったから」
あっさりと謝る加計本の顔を、主計が見下ろす。
威圧感にあふれた印象はたとえ自分と身長が離れていても、変わらなかった。
「じゃぁ案内すっから、ついてこいよ」
そう言って歩き出す加計本の後ろを、軽い鞄の持ち手を握り締めて歩く。
この鞄が、持ち上がらないくらい重くなってしまえば良いのに。
というか今、俺の体がこれより先に歩けなくなれば良いのに。
決まったことだが、頭の中ではくだらない逃亡の方法ばかり浮かんでくる。
そんな事ばかり考えていた中で、主計はふと思った。
「あ、あの……委員長」
委員長、と呼んだ時点で主計の負けはほぼ決定している。
後ろを振り返った加計本の目の下に、うっすらとではあるがクマが見えた。
作品名:とある学校の委員会は! 作家名:文殊(もんじゅ)