スタートライン (2)
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結局、日が暮れるまで作業をしたが、掃除は終わらず終まいで終了。明日へ持ち越しになった。勿論、それは想定内の事であったので、私としては大した問題ではなかったのだが、片付くどころか散らかしたようにしか見えない庭の光景は、結果的に母を怒らせる材料になったのは言うまでもない。でも、一見は雑然として見える光景、実はすべてジャンル毎に仕分けをしてあるのだ。後は捨てて良いものと悪いものの区別だけだ。伊達にバイトリーダーまで伸し上がったわけではない。片付けは得意な方だ。
「美紀ー。ごはん大丈夫ー?」
「やっば!」
今日の夕食係だということをすっかり忘れていた。携帯を見るとすでに十八時をまわっている。我が家の夕食の定刻は十九時だ。さすがにこのまま散らかした状態で朝を迎えるわけにもいかないので、ひとまずはブルーシートで覆って家に駆け込んだ。
「ちょっと! あんた忘れてたでしょ!」
「ごめんごめん! なかなか片付かなくてさ」
「だから言ったじゃない」
「まぁ、明日中には終わるよ。父さんは?」
「先にお風呂入ってるわよ。さっさとしなさいね。母さんも手伝うから」
「はーい」
今夜の夕食はスープパスタとサラダスパになった。
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夕食後、就寝前の父を捕まえて旅のことをいろいろ聞いてみた。
「話し始めたら日が暮れるぞ」との父の談だったが、ビール片手に嬉しそうに思い出話を語ってくれた。自分も久々にビールを開けた。元々、飲む方ではないので美味しくはなかったが微量なアルコールは夕食後のひとときを心地よく演出した。
まるで映画のようなドラマチックなものから「賞味期限切れのおにぎりを大丈夫だと思って食べたらお腹を壊して一日移動もせずにテントで寝込んだ」などというくだらない話まで。一時間半ほど話をしたところで父は気分良く眠くなったようで「まだまだあるけどまた今度な」とのことで、今夜のところはお開きになった。ポリポリとお尻を掻きながら二階の寝室へ向かう父。あの写真の勇ましい姿とは少々イメージが異なるが、父が語った旅行記はまぎれもなく経験者の口から発せられたものだった。聞けば聞くほど父が羨ましかった。
作品名:スタートライン (2) 作家名:山下泰文