スタートライン (2)
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昼食後、作業再開。
掃除を進めていくうち、たしかに旅に出ていたような証拠品が続々と出てきた。
寝袋、テントらしきもの、箱型のランプ、焦げ目のついた鉄製の食器やコンパクトなガスコンロ。それらは一つの木製の箱にまとめて入っていた。そして、ヘルメット。
ヘルメットには『セーフティライド! 一九八〇年・北海道』と書かれたステッカーが貼ってあった。一九八〇年。今から二十九年も前だ。他にもヘルメットには色あせた神社の交通安全ステッカーや、マジックで『不動心』という文字が殴り書きのように書かれていた。当時の父はかなり熱い性格だったようだ。初めはあまり想像できなかった過去の父親の姿が、思い出の品々と共にだんだんと現実味を帯びてくる。
小さなアルバムも出てきた。そこには若かりし頃の父が写っていた。今の面影も少しあるが、かなり若い。レザーのジャケットにジーンズ姿。そしてオニギリ型のサングラスをかけていた。高倉健や菅原文太にでも憧れていたのだろうか。どこかの灯台をバックにポーズをとった写真にはちょっと笑ってしまったが、なかなかに似合っている。そういえば、あの展望の庭にいた彼も同じような格好をしていた。これが典型的なライダーの姿なのだろう。
北海道とおもわしき写真も出てきた。雄大な大地、直線が続く道路、牧場、キャンプ場で仲間とビールを飲んでいる写真。どれも生き生きした表情だった。なんというか生命力が溢れていた。若い女性と仲むつまじく写った写真もあった。これは母には黙っておこう。でも、後で詳しく聞いてみたいな。
勿論、写真にはバイクも写っていた。いや、どちらかといえば、あらかたの写真の主役はバイクだった。どの風景写真にもベストアングルでバイクが写りこんでいる。運転手当人よりもよっぽど被写体率は高い。
サイドカバーには『GB250-CLUB MAN』というロゴが。外のバイクにもたしか同じ部分に同じロゴのグラフィックが貼ってあった気がした。一旦、倉庫の外に出てみる。やはり同じだ。こいつは父と旅の歴史を歩んできた相棒なのだ。
作品名:スタートライン (2) 作家名:山下泰文