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 髪をアップにしてまとめ、タオルを頭に巻いた。マスクも装着して、母が花粉対策に買った物々しいゴーグルをかけてみる。鼻までカバーするクリアプラスティック製の物だ。振り返り、姿見に映った自分を見て思わず笑ってしまった。さしずめ「掃除し隊」といった姿だ。雑巾や中性洗剤、使い古したハブラシやタワシ、食器洗い用のスポンジや、百円ショップで買ってきた洗剤要らずスポンジなどなど、それらをバケツに放り込むと、サンダルを履いて縁側から外に出た。今日も見事な晴天だった。
「よぅし! やるかぁ!」
 自然と気持ちが声にこもる。晴天の日の掃除は大好きだ。
 倉庫の管理は基本的には父がしている。倉庫といっても一般家庭にあるような百人乗っても大丈夫そうな倉庫などではなく、よく線路の上を走っている、そう、コンテナというやつだ。十年くらい前に突如、こいつは我が家に現れた。これなら五百人乗っても壊れない。しかし、よくも母は購入を許したものだ。三十万円くらいだと言っていただろうか? 通常の物置が大体十五万円程度だから、たしかに父らしい合理的な買い物だ。母方の祖父母の土地を譲り受けて建てた我が家は庭が無駄に広いため、そんなコンテナも違和感なく庭に納まっている。今では良い目印だ。学生の頃、友人を自宅に招く時などは「赤いコンテナが目印だから」などと言ったものだ。
 大きな、掌ほどもある南京錠を開けると、分厚い鉄の扉を引く。ギギギと、いかにも重そうな音を立て、左右に扉が開いた。黴臭くはないが、かわりにガソリンの独特な臭いが漂っていた。窓などはついていないので暗くて中の様子はよく見えない。ここに入るのは五、六年ぶりだろうか。
「たしか電気は、と……」
 暗闇の中、記憶を頼りに恐る恐る壁を探る。昔は通学用の自転車を入れていたりもしたのだが、いちいち鉄の扉など開けていられないと両親に訴えたところ、父は屋根つきの駐輪場を作ってくれた。それからは母も自転車はこちらに停めている。この屋根つき駐輪場、雨の日に洗濯物を干すのにも最適だと母にも好評だ。結局、父の買い物は女子二人には理解されなかったのである。