スタートライン (2)
2:今日から始まる私
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翌朝、事情を話すと特に両親は責めなかった。母からは「これからどうするの?」とは聞かれたが、貯金も溜まってるし、しばらく休みたいと答えると「それもいいんじゃないの」と、楽観的な答えが返ってきた。最近の重労働から私が精神的に参っているのにも気付いていたようだし、そもそも帰宅時間が深夜近くになる事に関しては「他の仕事でも探したら?」と苦言を呈していたのだ。母としては丁度良い機会だと思ったのかもしれない。父はというと「まぁゆっくり休んで考えなさい」と、予想通りの答え。流行のニートとやらにはならないと思ったのだろう。勿論、そんなものになる気もない。働かざるもの食うべからずだ。
数日間は怠けた生活を送ってみたが、これが非常に退屈で仕方なく、案の定、すぐに飽きた。家事を手伝うことがしばらくの休養期間の条件であったので、共働きの両親が家を出てしまう午前九時を過ぎると、そそくさと家事全般に手をつける日々が始まった。考えてみれば平日昼間から時間を持てるなんて幼稚園以前まで遡るのではないだろうか?
それから毎日、専業主婦のように昼夜洗濯や掃除をこなしていったが、二、三週間もするとそれだけでは物足りなくなってしまった私は、フローリングや壁紙の補修剤、お風呂のカビ取り剤なども買い揃えると、徹底的に家を奇麗にしていった。自分としては二十年間お世話になった家へのお礼の意味も込めての行動だったのだが、母から「沢渡さんとこの娘さんが花嫁修業を始めた。結婚が近いのかしら」と、近所で噂になってるわよと言われ驚いた。思わず笑ってしまった。母も噴き出してしまったそうだ。まったく、お母様方の噂話は恐ろしい。
そんなある日、母から「なんなら倉庫の掃除でもしておいてよ」と言われた。確かに倉庫は未だ手つかずだ。あまり自分が利用する機会がないので盲点だった。翌日、私は直ぐに行動に移した。
汚れてもいい服をと、押入れから高校生時代のジャージを取り出した。なんと黄緑色だ。これは今更ながら酷い。とても女子高のものとは思えない。いったい誰のセンスだったのだろうか。
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翌朝、事情を話すと特に両親は責めなかった。母からは「これからどうするの?」とは聞かれたが、貯金も溜まってるし、しばらく休みたいと答えると「それもいいんじゃないの」と、楽観的な答えが返ってきた。最近の重労働から私が精神的に参っているのにも気付いていたようだし、そもそも帰宅時間が深夜近くになる事に関しては「他の仕事でも探したら?」と苦言を呈していたのだ。母としては丁度良い機会だと思ったのかもしれない。父はというと「まぁゆっくり休んで考えなさい」と、予想通りの答え。流行のニートとやらにはならないと思ったのだろう。勿論、そんなものになる気もない。働かざるもの食うべからずだ。
数日間は怠けた生活を送ってみたが、これが非常に退屈で仕方なく、案の定、すぐに飽きた。家事を手伝うことがしばらくの休養期間の条件であったので、共働きの両親が家を出てしまう午前九時を過ぎると、そそくさと家事全般に手をつける日々が始まった。考えてみれば平日昼間から時間を持てるなんて幼稚園以前まで遡るのではないだろうか?
それから毎日、専業主婦のように昼夜洗濯や掃除をこなしていったが、二、三週間もするとそれだけでは物足りなくなってしまった私は、フローリングや壁紙の補修剤、お風呂のカビ取り剤なども買い揃えると、徹底的に家を奇麗にしていった。自分としては二十年間お世話になった家へのお礼の意味も込めての行動だったのだが、母から「沢渡さんとこの娘さんが花嫁修業を始めた。結婚が近いのかしら」と、近所で噂になってるわよと言われ驚いた。思わず笑ってしまった。母も噴き出してしまったそうだ。まったく、お母様方の噂話は恐ろしい。
そんなある日、母から「なんなら倉庫の掃除でもしておいてよ」と言われた。確かに倉庫は未だ手つかずだ。あまり自分が利用する機会がないので盲点だった。翌日、私は直ぐに行動に移した。
汚れてもいい服をと、押入れから高校生時代のジャージを取り出した。なんと黄緑色だ。これは今更ながら酷い。とても女子高のものとは思えない。いったい誰のセンスだったのだろうか。
作品名:スタートライン (2) 作家名:山下泰文