我侭姫と下僕の騎士
言葉の中に遠まわしではあったが何事か大切なことが隠されているとわかった。けれど、今のクレアにはそれが理解できない。ただ、一番単純なことだけはわかった。
イグニスは、自分と繋がりたいと言っているのだ。クレアとて、それを望んでいる。
「……はい」
花弁に感じる熱に、心臓が止まるのではないかというほど緊張したが、クレアは頷く。
恥かしくて逃げ出したいが、受け入れたくて疼いてもいる。
少しずつ花弁を押し広げる熱い肉杭に、クレアの心とは対照的に、体はイグニスを拒むように強張る。
入り口へと押し入る肉杭に、クレアは小さな悲鳴を上げた。
「い! つぅ……」
痛みを誤魔化すように毛布掴む。皺になるが、気にする必要は無い。
乙女の体内に侵入しながら、イグニスはクレアの体に覆いかぶさる。処女の強烈な抵抗に耐えながら、毛布を掴んでいるクレアの指を解いて自分の首に回させた。
痛みに耐えるクレアは、イグニスの背中に爪を立てる。
イグニスにしてみれば、背中に爪を立てられるぐらいの痛み、現在自分の腕の中でクレアが感じている痛みに比べればなんのことはない。
「大丈夫ですか? ひ、……クレア?」
「き、きつぅ……い、し、痛い、わ」
文字通り、体を裂かれる痛みに耐えながら、クレアは深呼吸を繰り返す。力を抜けば楽になると乳母に教わったが、上手くできなかった。
ゆっくりと時間をかけて自身をクレアの体内に沈め、イグニスは気遣わしげに汗で額に張り付いた黒髪を払う。
「全部入りましたよ」
意識は朦朧としているが、クレアはイグニスの言葉にこくりと頷いた。
クレアからしてみれば、熱い肉杭に縫いとめられたかのように身動きが取れない。ジンジンと痛む下腹部の中心に杭か鉤爪でも入れられたような気分だ。杭もクレア自身も熱を帯びていて、きつく苦しいという圧迫感はあるのに、どこからどこまでが自分とイグニスなのか、その境界線すらわからない。
「動いていいでしょうか? それとも、もう少し休みますか?」
気遣って頬を撫でるイグニスに、クレアは淡く微笑む。
「まだ、少し痛い。けど……平気よ」
女性であれば誰もが経験する痛みだ。自分ばかり痛いから嫌だなどと言ってはいられない。
クレアの反応を確認しながらの挿入出がはじまり、イグニスの背に回していた腕を下ろす。毛布を掴んで身を地に繋がないと、イグニスが腰を引く度にクレアの腰も引かれてしまった。処女の硬さが抜けないクレアの花弁は、十分に潤っていても円滑な挿入出を拒む。押し入る度に蜜を溢れさせるが、痛みとは違うモノをクレアが見つけるまでには少々時間がかかった。
イグニスが根気強く挿入出を繰り返すと、やがてクレアの唇から甘い吐息がもれはじめる。
「は、ああぁ……、あん、ふあ」
律動にあわせて聞こえる声に、イグニスは少しだけ速度を上げた。滑らかな挿入出が可能になりはじめた狭い洞穴に、イグニスの理性も溶かされる。
「あ、ああっ」
速度にあわせて変化を見せるクレアの声に、もう痛苦の色は無い。
イグニスが更に速度を速めて腰を打ち付けると、クレアが眉を顰めて訴えた。
「イグニス、背中。背中、痛い……」
柔らかい寝台と比べれば硬すぎる地面を背に、クレアは悲鳴をあげた。イグニスの腰の動きが早まると同時に、背中への衝撃も強くなる。ついに耐え切れなくなって訴えれば、イグニスはクレアと繋がったまま体を抱き上げた。
クレアの訴えを受けたイグニスは、膝立ちの姿勢になり、その膝にクレアを乗せる。
これならば、地面との接点はイグニスだけだ。腰と足に負荷はかかるが、イグニスにしてみればクレアの体重などなんのことはない。軽いものだ。
自分の腰の上に跨ることとなったクレアの尻を両手で掴み、持ち上げる。中へ進入する時は、クレアの自重に任せた。
より深く、強く花弁を突き上げる肉杭と、そこから波のように押し寄せる快楽に、クレアは髪を振り乱して声をあげる。
「あ、あ、ああっ! イグニス、イグニスぅ」
自らもためらいながら腰を振りはじめた姫君に、イグニスは強めに尻肉を揉み捏ねる。こうすると花弁も押し開かれるように刺激されるため、ますますクレアの声は大きくなった。
「やぁ、なにこれ? 気持ちいい。気持ちいいの」
ズンズンと身体の最奥を突き上げられる快感に、クレアはうわ言のように繰り返す。結合部から淫らな水音が響いていたが、その音さえもクレアの中の興奮を煽った。
「クレア、クレア」
やっと一つになることが出来た、愛しい姫君。
もっと気持ち良くしてあげたくて、イグニスはクレアの感じる場所を探す。
クレアの片方の太ももを抱き寄せ、横から突き上げる。角度の変わった突き上げにクレアはよがり狂い、花弁はもっともっとと蜜を垂らす。まるで涎のように太ももを伝う蜜に、それすらも愛撫のように捕らえてクレアは震えた。
もっとないか、まだないかと反応が良い場所を探すうちに、くるくると姿勢を変えられて、クレアは最初にしたように四つん這いになった。最初と違うところがあるとしたら、体力のつきかけたクレアが肩を落としているぐらいだろう。臀部だけを突き上げたより情欲を煽る姿に、イグニスの興奮も高まった。
毛布の上で丸くつぶれる双丘を揉みこむようにクレアの上体を持ち上げる。
「い、イグニス、もう、わたし……!」
切なげに訴えて振り返ったクレアの唇に、イグニスは舌を絡めて答えた。
「はい。私も、そろそろ限界です」
指の間に蕾を挟みながら双丘全体を揉みしだき、勢い良く最奥へと腰を突き上げて、イグニスはクレアの体内へと己を放つ。
敏感な部分を三箇所どころか四箇所同時に攻め立てられたクレアは、初めてだというのに盛大に意識を手放した。
体は酷く疲れ果てているというのに、クレアの最奥だけはどくどくと波打つ。まるでそこだけ別の生き物にでもなったようだった。
先にソレを感じた時にはわからなかったが、今なら解る。
これはイグニスの放った精を奥へ、奥へと運んでいるのだ。
彼の新しい家族を迎えるために。
背中に覆いかぶさるイグニスの体温を感じて、クレアは幸せに包まれた。
柔らかい寝台がなくとも。
甘い菓子などなくとも。
イグニスさえ側にいてくれれば、自分はいつでもどこでも幸福でいられる。
それだけで、十分だった。
翌朝にはすっかり乾いた服を纏い、イグニスは馬の状態を確認する。
洞に入ってすぐに体を拭き、固形燃料で火をともしたおかげで洞の中も温まり、馬が風邪を引いた様子もなかった。
「……これは」
昨夜は気がつかなかった馬具を見つめ、イグニスは驚く。
金銀はおろか、所々に宝石が散りばめられた馬具は、仕立てが良いどころの問題ではない。鐙一つでも相当の価値があり、換金すればひと月は遊んで暮らせるはずだ。――とても村はずれに放置されている馬ではない。
普通であれば、馬のためだけに見張りが何人もついておかしくはなかった。
改めて馬具を調べると、鞍の隙間に白い封筒が挟まっている。抜き出して封の代わりに押された印章を確認し、開いた。白い便箋に綴られた覚えのある筆跡に、イグニスは一瞬だけ驚き、目を細めて懐かしむ。