顔 上巻
捜査陣の一部は、このふたりに時間を潰させて、
捜査会議と云う名の温泉旅行に湯河原へ出かけた。
取り調べる刑事たちも、捜査陣も。成果など期待していない。
そんな気楽な雰囲気を捜査陣皆が持っていた。
老刑事は、しかしながら、その事件の捜査資料をつぶさに読んでいた。
小山もこの老刑事の激烈な加齢臭に、我慢しながら、
捜査資料に目を通していた。
「なぜ、そんなに真剣になれるんですか?」
老刑事は顔を上げて答える。
「・・だってさぁ、これが仕事だからさぁ・・。」
一之瀬克也は昭和60 年2 月9 日、開業医の父と主婦の母の間に
長男として愛知県豊田市に生まれた。
幼少の頃より勉学優秀で近所でも名の知られたこどもだった。
中学卒業まで、成績はクラストップ。地元の有名私立高校に進学。
ここでも、成績は優秀。性格も温厚とされ、皆から好かれる対象だった。
横浜大学医学部に進学するが、医師国家試験に落ち、そのまま卒業となった。