顔 上巻
③取調べ担当
なんの進展もない取調べに業を煮やした捜査本部は、
ある老刑事を呼び出した。
老刑事は、この事件は無関係だったが、
捜査陣の気分転換も必要、と考えたのだ。
萬にひとつでも。転機が転がり込めば、しめたものだ。
そうすれば、この老刑事も最後に花道を飾れるだろう。
呼び出されたのは所轄の定年間際の大川巡査部長と、
若い刑事になりたての小山巡査だった。
大川という老刑事は、「大きな事件なんかに関わった事がない」ことを
寧ろ誇りとする人物で、「コソ泥とウリ専門」と揶揄された刑事で、
大柄な体を猫背に曲げ、深く刻まれた額のシワは
経験を物語っていそうだが、そういった経験の持ち主ではなかった。
女性の小山は若くて暴走気味の性格を矯正するため、
この老刑事についている修行の身。
とにかく石原プロの刑事ドラマを見て育ったと豪語するだけあって
女だてらに、渡哲也だの、館ひろしだののような
サングラスをこれ見よがしにかけている。
どことなく行動のすべてに。
西部警察が刷り込まれたような風情で。