顔 上巻
事件当時は、国家試験の予備校に通っているとされていたが
予備校に通った形跡は無く、親の仕送りで暮らしながら、
進路について考えていたのではないか、と推測された。
などなど。二人の刑事は、資料室に積まれた
一之瀬の事件の報道番組のビデオを見ていた。
膨大な捜査資料の字づらを追うのは、つらい。
医師の国家試験には合格する実力を兼ね備えていたものの
大学進学時、父が医療事故に端を発する訴訟に巻き込まれ
それが元で、医師への道を自ら閉ざしたのではないか、との
元同級生のインタビューが録画されていた。
「医者もたいへんだよな。」
大川はボソッと言うと、小山はその点達観していた。
「いい金もらってるんでしょ、その分働いて当たり前ですよ。」
大川は、あぁ、なるほどな。と頷いた。
大川は二枚の顔写真を並べてみた。
左側は、事件後逃走時の一之瀬の顔。
日焼けして、こけた頬、吊り上った眉毛、捕食獣のような鋭い目。
鼻筋も通った、なかなかスマートな・・精悍というよりはやはり
獣じみた印象を感じた。