顔 上巻
名うてといわれた刑事たちにも、忍耐の限度があった。
取調室のビデオを気にして、留置所で暴力を加える者も出てきた。
激しく腹部を殴られ、吐血した状態でも、一之瀬は何も語らなかった。
テレビのワイドショーは連日、専門家といわれる警察OB だの医者だの
を出演させ事件の成り行きを放送し、過去の逃走経路についても調査
していたが、警察発表の上塗りである域を出るものではなかったが、
概ね視聴率は好調。
警察庁のある幹部は、事件の社会的関心の高さと早期解決のため、
捜査陣に檄を飛ばした。
しかし、一向に口を開こうとしない一之瀬を前に、捜査陣は手を焼いていた。
神奈川県警も落とし屋といわれる刑事たちを、動員したものの
全くナシのつぶてだった。
拘留期限が迫り、容疑が殺人事件に変更され一之瀬は再逮捕された。
これはロザンナさんの、恐らく致命傷となった首を絞めたと思われる、
ロザンナさんの着用していたベルトに一之瀬容疑者の指紋が残っていたため、
と報道された。
これを機に、加熱する報道への配慮もあり、一之瀬は横浜刑務所の下部機関
である横浜拘置支所に移送された。