顔 上巻
長いヤツはもう半年ここにいる・・とか言ってたな。
唯一、日本語が普通に話せるヤツがいた。
なんでも昔は役者志望だったとかいう女で。
あ・・でも、日本人じゃなかったな。
いやもう30 廻ってたんじゃない?
もう人生疲れきってるような女でさ。
基本的にはさ、あの女はここに住んで
夜、体を売って。稼いだ金を、ここで整形に使っていた。
整形マニアなんだよな。
「ここをなおすと、こんどはあそこを直したくなるのよ。」って。
で、闇医者に紹介された仕事というのが売春だったらしい。
となれば、身の危険を感じたさ。
カマ掘られるのかなって。
だが、オレにさ、紹介されたのは、別な仕事だった。
しかも。割りはよかった。だが、すぐに体を壊した。
その仕事は、新薬の実験台だった。
ある製薬会社の試験場みたいなところに行かされてさ。
彼らの前でオレは。犯罪者でもなんでもなく、ただ単に
「なにがあっても訴訟をすることのできない人間」でしかなかった。
勿論、オレが逃亡者であることなど、彼らは興味すらなかったようだ。
ひと仕事するのに三日から一週間かかった。
風邪薬だの。胃腸薬だの。
スキンローションだの。
一番酷かったのは、蚊を百匹ぐらい閉じ込めた部屋に二時間立たされて。
蚊除けの薬だったんだな。失敗作だぜ。
酷い下痢が続いたり、発熱したりすることもあった。
だが、ドヤの仕事に比べれば。格段に違って。
二ヶ月もすると整形手術の資金は出来た。
とにかく、オレ。オレとさ。わからない顔にしてくれって。
そぅ、目立たない顔に。一重だったまぶたを二重にして。
手術台に上る日が来た。それまで手術台になんて上がったことの無いんで
緊張したが、それよりも手術室の、あまりに衛生的でないところに
恐怖を感じた。
闇医者のヤツ。オレをさ。手術台に縛りつけてからいいやがった。
「値引きの分は、麻酔代だからね~」だと。
ヤツは麻酔注射代をケチりやがったんだ。
オレはさ。悲鳴を上げたさ、勿論。
あまりの激痛のため、気を失うまで。