顔 上巻
なにか堰を切ったように言葉を垂れ流した一之瀬に大川は茶をすすめた。
大川は、事件の証拠品を入れるビニール袋をひとつ取り出した。
袋には派遣会社に登録するためのプロファイル・シートが一枚。
氏名欄には「高田隆」という名が記されていた。
写真は元の一之瀬の顔をスキンヘッドにした・・眼鏡で変装をしたつもりか。
しかし、派遣会社は彼が逃亡者一之瀬であることはわからなかった。
一之瀬が、逮捕時に持っていた携帯電話の登録名が「高田隆」だった。
一之瀬は、軽く欠伸をして、宙を仰いだ。
「筆跡鑑定の結果、君の字であることがわかった。」
大川は一之瀬に告げると、一之瀬は、退屈そうにコクリと頷いた。
すんごくさ、頭の悪い連中でさぁ。
頭が悪い上に強欲っていうか。オレ、オレからすれば、さ。
あいつ等の方が、オレよりずっとワルだって。うん。
派遣会社が中間マージンをガッポリ取っていたので
返って割が合わないことがわかった。
と、同じ頃に。炊き出しで出会った男がいた。
なんでも、山形かどこかで、親子丼きめて、
逆上した母親が刃物を持ち出したんで勢い余って親も娘も
両方殺しちまった・・みたいなこと言ってたな。
陰気な男でさ。そいつは金貯めて。整形手術を受けたっていうんだ。
簡単な手術さ。一重を二重にするとか。鼻を高くするとか。
そしたら手配写真の前にいても気付かれないって。
そいつの話に興味を持ったんだ。オレ。
美容整形ってさ。美しくなるのが目的だろ、普通は?
正直、オレ。オレはさ。結構イケメンだから関係ないって思ってたのさ。
けど。ヤツは。別人になるために。整形手術を受けた。
これがさ、結構、オレのさ、オレの中で響いたんだよな。
そして整形を行なう闇医者の存在を知った。
その闇医者は新宿のハローワークの傍の雑居ビルにいると聞いて。
だが、随分と法外な料金を取るらしいことも聞いた。
そのうち、頭髪の伸びたオレを、指名手配犯として通報するやつが出てきた。
そのとき初めて自分に、懸賞金が懸かっていることを知った。