顔 上巻
意外に払いも良かったんで10 万20 万の金はすぐに出来た。
それを持って東京の山谷地区を目指した。
<とにかく身を隠すには今も昔もドヤがいい。>
そのことは寿地区で知り合った年寄りが言っていた。
互いに触れられたくない傷を持つもの同士が、
寄り添った振りをしながら生きていける場所として。
だが、山谷地区は居場所としては。最悪だった。
ドヤの住人たちは年寄りばかりで、若いヒトはいなかった。
そのため、オレ。オレはさ。返って目立つ存在だった。
オレのさ。ポスターも何枚か貼ってあった。
自分のポスターに落書きされて。喜んだのはオレ。
オレぐらいなものだろうな。
警察は、事件が起きて直ぐにこちらに捜索を掛けたらしいが、
地元のドヤには、居ないと踏んだんだろ?
山谷じゃ、日雇いの業者も、オレの顔をチラチラ見ながら。
なにか居心地が悪かった。
だから、オレ。オレの様な若いヒト向けの肉体労働は、無いかなって。
派遣会社に登録したんだ、偽名使って。
肉体労働が好きかって?バカ言えよ、オレはさ。このオレはさ。
どちらかといえば頭脳労働のほうが、勿論得意さ。
一応、医学部出てるしさ。
環境が良かったんだ。
肉体労働の環境がさ。
食い扶持の為にのみ集まってきて、
その日のことはその日に忘れる。
そんな刹那的な感じがさ。逃亡者なオレ。
オレにはピッタリだったんだな、きっと。