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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 ぽんとお蝶が相手の手首を叩けば、握られていた匕首は吸いつけられるように地面に落ちる。
 舞い踊るお蝶の姿はまるで黒子の操る糸人形のようであった。
 いつの間にかやくざもんたちは地面に倒され、残る一人は乱心して匕首を振り回して襲ってくる。けれど、そんな相手も軽くあしらい、力も加えたようすもないに、ひょいと投げ飛ばしてしまった。
 くるりと回って飛んだ男は腰から地面に落ち、呻き声をあげながら戦意を喪失させた。
「お、覚えてやがれ!」
 と、お決まりの文句を吐き捨てながら、情けない背中を見せて逃げていくやくざもんたち。
 辺りは急に静まり返ってしまっていた。
 しかし、空気は緊迫した人々の視線が痛いほどに飛び交っている。
 お蝶が物陰に隠れている町人に顔を向けると、町人は怯えた唇を開きはじめた。
「おまえさんたち、天狐組に手を出すなんて生きてこの町を出られないよ」
「この島のやくざはそんなに幅を利かせてるのかい?」
「天狐組とお代官様が……」
 なにかを言いかけて口を噤んだ。それでも察しは容易につく。天狐組とお代官様の間に、なんらかの関わりがあるということだろう。
 黒子に抱かれている娘は安らかな顔をして目を閉じている。その首筋には痣らしき青い痕があった。
 そして、娘は死んでいた。
 痣以外は外傷もなく、こんな痣が致命傷とも思えず、娘はおそらく病かなにかで死んだのだろう。
 お蝶は辺りの人々に言葉を投げかける。
「死んだこの娘さんの身寄りを知ってる者はいないのかね?」
 皆一様に首を横に振った。中に一人がこう言う。
「その子は女郎だよ、どっかの村から連れて来られたんだろうよ。この町に身寄りなんていないさ」
 引き取り手がないのならば仕方ない。
 黒子は柿渋色の葛籠を開けると、中にその娘を丁重に入れた。人々はその光景に目を丸くした。
 大きな葛籠と言っても、中に荷が入っているだろうし、娘が入らないこともないが、躰を曲げなければ到底入らない。それが、娘の躰はすーっと葛籠の中に吸い込まれたのだ。
 天神の術か、それともバテレンの術か、得体の知れない黒子の謎は深まるばかりだった。
 娘の入った葛籠をひょいと持ち上げ、黒子は重さなど感じさせない足取りで歩く。
 お蝶も自分の三味線の包みを持って歩きだす。
 二人が向かった方向は、やくざもんたちが逃げてった方向だった。