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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 先ほどまで険のあった男の表情も、きょとんと人形に魅入られてしまっていた。
 夜も更るまで、お蝶は声枯れることなくその美声を響かせた。それに合わせて黒子も一人で二体の人形を操る妙技を魅せた。見ている二人も時を忘れて、時おり思い出したように瞬きを連続でしていた。
 険悪だった雰囲気もどこ吹く風で、芸が終えた後は皆に健やかな眠りが訪れた。
 ――翌朝になると雨は止んでいた。
 眠気眼を擦りながら男は狐に抓[ツマ]まれた気分だった。
 過ぎ去った雨と共に、謎の旅芸人たちも姿を消していたのだ。
 小屋の外にでた娘を色鮮やかな紅葉が出迎えた。
 秋の景色は哀愁を誘[イザナ]い、娘は潤んだ瞳で泣いていた。
 それは売られていくことの哀しさか、それとも別の想いなのだろうか……。
 知るは娘の心だけ。

 町中でも二人の姿は行き交う人の目を惹いていた。
 旅芸人のお蝶と黒子である。
 華のあるお蝶を見る目は皆熱く、全身真っ黒な黒子を見る目はさまざまだ。
 柿渋色の葛籠を背負い、黒子は杖を突きながら歩いている。杖の突き方は地面を確かめるようで、前が見えていないような歩き方だった。
 道の真ん中を歩くお蝶と黒子の向かいから、派手な着物を乱す娘が走ってくる。
 だいぶふらつく足取りで、娘はぶつかるようにしてお蝶に抱きかかえられた。
 すぐさま娘を追ってきた面構えの悪いやくざもんたち。
「あら、困ったねえ」
 と、お蝶は小さく呟いた。
 抱きかかえられた娘はすでに気を失っている。やくざもんたちはすぐそこまで迫っていた。
「おい、その娘を渡してもらおうか!」
 ドスを利かせた低い声に、周りの町人たちは身を潜めたが、言われたお蝶は凛としている。
「渡すもなにも、あたいたちは通りすがりの旅芸人。この娘さんとはなんの関係もありやせん」
「ならさっさと渡しやがれ!」
「ですが、通りがかりとはいえ、あたいに助けを求めた娘を放っておくわけにもいきやせん」
 娘と三味線を黒子に預けようとお蝶は振り返り、向けた背に血の気の多いやくざが飛び掛ってきた。
 黒子の持っていた杖が飛ぶ。
 杖はやくざの眉間に当たり、短い奇声をあげてどんと倒れた。
 やくざもんたちが一斉に匕首を抜いた。
 対するお蝶は素手である。
 ひらりひらりとお蝶は踊り、風を切る刃先を躱す。