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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 長い時間が無言で流れた。
 遠くの山から雷鳴が響いてくる。
 雫の音が小屋の中でした。続いて男の舌打ちが聴こえる。
「チッ、雨漏りしてんじゃねえか……」
 眼を凝らすと男の着物の袖に染みができている。
 天井を見れば雫がぽつりぽつりと垂れている。険悪な雰囲気に拍車をかける出来事だ。
 お蝶が自分の横に置いていた包みをすっと手に取った。
「退屈じゃぁありませんかい?」
 男が顎をしゃくってお蝶を見ると、彼女は話を続ける。
「これでも旅芸人の端くれ、退屈しのぎに芸を見てくださいまし。もちろん御代はいただきません、退屈しのぎの座興でございます」
 お蝶が包みを開いて出したのは、三本弦をぴんと張った楽器。見た目からも明らかな三味線だった。
 不審の念を抱く男の目の前で、黒子が葛籠を開けようとしていた。
「おいてめぇ、なに出そうとしてんだ!」
 身を乗り出す男。
 すぐにお蝶が割って入った。
「これから見せます芸に使うもんですよ」
 黒子が葛籠から取り出したのは、煌びやかな羽織りを着た糸あやつり人形だった。人形の大きさは、だいたい黒子の膝丈くらいだろうか。
 人形が出てきて、はじめて晴れ着の女が口を開いた。
「おもしろそうね」
 やはり若い。化粧で艶やかに繕っていても、声は瑞々しく幼さが残っている。
 相手の興味を惹けばあとは簡単。
 しかし、男は未だに警戒感を解いていない。
「そんなの頼んじゃいねえ、さっさと仕舞いな」
「そうといわず、そちらの娘さんは見たいと顔に書いてありやす」
 と、お蝶は言って娘の顔を覗きこんだ。
「見たい、わたしは見たい」
 願いを乞う瞳で娘は男を見つめたが、男はそれを簡単に突っぱねた。
「てめぇにゃ自由なんてねえんだ。おれが見たくねえと言ったら、それでおしまいよ」
「わたしは売られていくんだ。これくらい良いじゃないか……御代もいらないと言っているんだ」
 売られていく娘に上等な着物を着せて送り出す。それが晴れ着と化粧の理由だった。
 もうすでにお蝶はイチョウ型の撥を構えている。黒子の準備も整っているようだ。
 男は不貞腐れた顔で、床にどすんと胡坐をかいた。
 するとはじまるお蝶の演奏。
 澄んだ声で唄い出すお蝶に合わせて、黒子の操る人形が舞い踊る。
 時には激しく、時には穏やかに、人形は小人と見紛うほどに滑らかな動きを魅せている。