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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 ぼとりと堕ちた腕は斬られてもなお動いている。
「おのれぇッ!」
 刀を捨てて血が吹き出す肘を押さえる代官の顔は、恐ろしく醜悪に歪んでいる。
 代官がお蝶に背を向けて駆けた。
 逃げる気かと思いきや、代官は不可思議な行動に出た。
 なんと凍えるような池の水に自ら飛び込んだのだ。
 水飛沫を上げた池は波紋を立ててやがて静かになった。
 代官は上がってこない。
 まさか池に秘密の抜け道があるとでもいうのか、お蝶は池に目を見張っていた。
 その時だった。
 火山が噴火したごとく水飛沫が上がり、お蝶の身長の二倍はあろうかと思われる巨大な影が飛び出したのだ。
 月光を浴びて煌く水飛沫の中に、その怪物はいた。
 暗がりではよくわからぬが、筋骨隆々の躰は水草のように緑色をしており、手足の指の間には水掻きが付いている。そして、その怪物の象徴とも言える皿が頭に乗っていた。
 巨大な河童だ。
 片腕のない河童がギラリと眼を輝かせ、眼下のお蝶を睨みつけていた。
「正体を現しやしたね」
 物怖じしないでお蝶は河童を見上げていた。
「儂の正体を見たからには決して生かして帰さぬぞ」
「あたいもお前さんを生かしちゃ置きやせんぜ。お前さんに殺された女の怨み辛み、きっと極上の味がしやすぜ。残さず召し上がるといいよッ!」
 速い。
 お蝶の動きは疾風のように速かった。
 繰り出される妖糸の雨。
 負けじと河童は鋭い鉤爪で妖糸を切り裂き、巨体を動かしお蝶に襲い掛かる。
 圧し掛かるように迫る河童をお蝶は嘲笑った。
「まったくお前さんという野郎は、頭が弱いんじゃないかね」
「なんだと?」
「魅せやしょう、傀儡士の奥義召喚術。篤とご覧あれ!」
 河童が立ってた地面が不気味な輝きを放った。その光は地に描かれた魔法陣であった。いつの間にか、またしても地面に罠が仕掛けてあったのだ。
 地の底から身も凍る、巨獣にも似た〈それ〉の咆哮が聴こえた。
 河童は動くことができなかった。自分の真下に何かがいるとわかっていながらも、恐怖で身がすくんで足が動かない。
 〈それ〉の恐怖は大地にも伝わったのか、黒土が生き物のように蠢いていた。
 否、まさにそれは生き物だった。
 〈それ〉の咆哮は大地を腐らせ、この世に大量の蛭を呼び出した。
 何千何万といる闇色の蛭は、動けぬ河童の躰を覆い、血を貪るように啜った。