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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 躰の血を全て吸われ、お千代は暗い地面の底に葬られたのだ。
 お千代は嗤った。
 嗤いを木霊させながら、代官の手から般若面を奪い取り、部屋の外へと走り出した。
 後を追う代官は刀を取り、襖を開け、障子を開け、縁側に出た。
 お千代は何処へ消えた?
 女の嗤い声が静かな空気に木霊した。
 月明かりを浴びて庭に佇む女の影。
「わたしを殺した怨み。そして、殺されていった女たちの怨み。篤[トク]と味わうがいい」
「やれるものなら、やってみろ」
 代官は下卑た嗤いを浮かべ、すぐに人を呼んだ。
「皆の者、曲者じゃ、出合え出合えい!」
 大声に数人の武士が慌てて現れた。そして、仲間が仲間を呼び、次々と武士が沸いて出る。
 堂々と庭先に立つ女が般若面に手を掛けた。
「魅せやす、殺りやす、咲かせやす。この世には、悪の蔓延る処なし。今宵も華を咲かせやしょう」
 般若面は宙[ソラ]高く投げられた。
 そこにお千代はいなかった。いたのは桜柄の着物を着たお蝶。
「夜桜お蝶、毒を持って毒を制しに参上いたしやした」
 正体を現したお蝶に武士たちは一斉に抜刀した。
「曲者じゃ、斬り捨てい!」
 代官の命令で武士たちが次々とお蝶に襲い来る。自ら死に飛び込むようなものだ。お蝶は艶笑する。
 悪の蔓延る処なしと言いながらも、毒を毒で制すという。
 お蝶の浮かべた笑みは魔性だった。
 闇の中で細い細い輝線が宙を翔ける。
 呻き声があがったのが早いのか、それとも刎ねられたのが早いのか。生首が次々と宙を舞った。
 黒土に鮮血が染み入る。
 流された女郎たちの血に比べれば、穢れ、対価にもならない。復讐を晴らすには、まだ血が足らない。なによりも、代官が血に沈まなければ、女たちは浮かばれぬ。
 お蝶の技が冴える。
 呻き声や悶え声が闇の中で次々と木霊する。
 武士たちは怯んだ。
 見えぬお蝶の攻撃に恐れ慄[オノノ]いた。
 逃げ惑う武士も現れた。
 しかし、お蝶が逃がすわけもない。
 背を向けて逃げた武士は八つ裂きにされた。
 容赦ないお蝶の攻撃は続き、黒土は血で泥濘をつくり、地獄の沼を形成した。
 美貌を湛え、艶やかに笑いながら人を斬るお蝶は、まさに羅刹女そのものだった。人である武士たちが敵う相手ではない。武士たちは生きて地獄を見た。
 やがて立つ者は二人を残していなくなった。