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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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一之章


 山道を歩いていると急な夕立が降ってきた。
 近道だと通ってきた道だが、斜面が急で足元が悪く雨でぬかるみはじめている。
 柿渋色の大きな葛籠を背負っていては余計に歩きづらいだろう。
 遠めに目を見やると、小さな山小屋が見えた。猟師が骨休みをするための小屋だろう。寝泊りくらいならできそうだ。
 芸者か花魁か、桜模様の華やかな着物を着た女は小屋の扉を開けた。
「失礼しますよ」
 誰もいないと思って言った挨拶だが、どうやら中には先客がいたようだ。
 男と女がひとりずつ。微妙な距離を保って座っている。どちらも猟師には見えない。
 見るからに尖っていそうな男は案の定、小屋に入ってきた女に向かって睨みを効かせた。だが、次に入ってきた者を見て、ぎょっと眼を剥いた。
「なんだてめぇら?」
 答えたのは華やかな着物を着た女だった。
「失礼いたしやす、あたしゃ旅芸人のお蝶と申します。こちらにおりますのが、連れの黒子」
 黒子の姿はまさに舞台裏方の黒子。頭巾を被った黒い顔で、軽い会釈をした。旅姿としては相応しくなく、空の下で出会えば皆一様に驚く姿だ。
 お蝶は早々に腰を下ろすと、黒子も背負っていた葛籠を床に下ろして正座をした。
 方膝を立てて座っている男は、あからさまに嫌そうな顔をしてお蝶と黒子を見ている。
 お蝶はにっこり笑って受け流す。
 男は舌打ちをして床を睨んだ。その近くには女が似たような眼をして床を見ている。
 この男女の関係は恋仲には見えない。
 男の風貌から察するに、やくざもんの使い走りだろうか。少なくとも真っ当な生き方をしている者の眼ではない。
 女のほうは難しい。綺麗な晴れ着と化粧をしている。お蝶と比べれば不思議はないが、山中には不釣合いだ。
 化粧で誤魔化されているが、よく見れば女は若い。まだまだ娘という言葉が相応しいかもしれない。
 子細がありそうな男女だ。
 小屋の屋根を叩く雨音は強くなっている。もう外には出られそうにない。日も暮れはじめ、今夜はここで一晩明かすことになりそうだ。
 しかし、一晩明かすにしては険悪だ。
 元凶は不貞腐れている男。お蝶と黒子に不快感があるようだ。特に黒子を見る眼は鋭い。
 黒子は正座をして無言でじっとしている。その姿は不気味という形容詞が当てはまりそうだ。得体の知れない者に警戒感を抱くのは当然といえよう。