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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 敵に背を向けて歩き出すお紺。後ろから攻撃をするような、無粋な真似はしない。お蝶と黒子はお紺の後をついて行った。
 裏庭は閑散としていた。
 背を向けて歩いていたお紺が振り返った。
「うちの組はあらかた壊滅状態。そろそろ潮時かねぇ」
「そんなことありやせんよ。あたいの見たところ、ここの組はお前さん一人の力で成り立っているように思えやしたが?」
「?かしら?っていうのは?頭?と書くのを知ってるかい? 実際に躰を使って動くのは?手足?さ」
「つまり自分独りじゃなにもできないと?」
「あはは、なかなか言うじゃないか。試して見るかい?」
「滅相もない」
 と、言葉は下手に出ているが、表情は不敵だ。
 お蝶の後ろでは黒子が葛籠を下ろして、地べたに正座をしていた。それはこれからはじまることを予兆している。お蝶とお紺の戦いがはじまるのだ。
 どちらも妖気を纏った魔人。
 まだお紺の実力は定かではないが、妖々とした氣がお紺の周りを渦巻いている。
 しかし、お蝶は掌を返したように肩から力を抜いている。
「ここはひとつ穏便に済ますことはできやせんか?」
「怖気づいたようには見えないけど、どんな魂胆があるんだい?」
「魂胆なんてありやせん。宿から連れ戻された娘を返していただければ、早々に退散いたしやす」
「返すもなにも、あれはうちの商売道具だよ」
 もし、あの娘を渡しても、本当にお蝶が引き下がるとは思えない。それに加えて、お紺には晴らしたい仮がある。
「大勢の組の者がどこかに逝っちまったんだ。あんたを生きて帰すわけにはいかないよ」
 と、お蝶に言われても、やはりお蝶は惚ける。
「さて、本当に何処にいきやしたんでしょうねえ?」
「もういい加減にしな!」
 ついにお紺が声をあげた。目じりを大きく吊り上げ、本性を見せた。けれど、それもすぐに治まる。
 すぅと息を吐いてお紺は艶やかに微笑んだ。
「まあいいさ。あんたがなんと言おうと、邪魔者には変わりない。始末するに越したことはないよ」
 空は黄昏に染まっていた。妖魔が跋扈する時間が近づきつつあった。戦いには相応しい。
 お紺が構えた。
 しかし、先に仕掛けたのはお蝶。
 振られたお蝶の指先から輝線が翔けた。
 ひょいとお紺は横に退いた。
 お蝶は腕を振ったままの体勢で動きを止めてしまっている。
「避けなさるとは……視えやしたか?」